中核地域生活支援センターまつど ほっとねっと
障害者グループホーム支援ワーカー 竹村 良子


treeはじめまして。この4月に入職をしまして、初めて季節のコラムを書かせていただくこととなりました。

ほっとねっとの竹村良子です。今年の夏も暑い夏でした。ほっとねっとの前のケヤキの木にも大きな声で蝉が鳴いていました。

実は私は蝉がとっても苦手です。鳴き声は「あぁ、夏だなぁ」と感じさせてくれる風物詩ですので、苦にはならないのですが。(それでも電話応対中には「ちょっと静かにしてて欲しいなぁ」と思うときもありますが)あの見た目や、急に動き出すところが怖くてたまりません。

さて、以前勤務していた病院は、緑あふれる精神科病院でした。芝生が敷き詰められているグラウンドには大きな桜の木が7本も植わっており、藤棚もあれば竹やぶもあり、池には水草の中を鯉が泳いでいました。敷地外には春になると猛威を振るって花粉を散布する杉林があったりや、梨園やブドウ畑が隣接するたくさんの木々と花々があふれる病院でした。

そして、当然のことながら、夏は例の彼らが大量に鳴き始めます。グラウンドは彼らが長年眠っていた地中から出てきた穴がポコポコと開いており、その穴を見るたびに「いっそのこと残りの一週間も地中で過ごすように進化してくれないかな?」「長年住み慣れた地中から、あえて地上に出るのって蝉にとって本当に嬉しいことなのかな?」とこちらの都合で考えてしまいます。

そして、病棟をつなぐグラウンドの端にある渡り廊下には、彼らが仰向けで転がっています。大抵、そんな彼らはまだまだ元気で、そばを通ると「ジー!!」と羽ばたき始めるのです。

その病院では朝、男性閉鎖病棟へお迎えに行き、数人の患者様と一緒に作業療法室へ行くという一連の仕事がありました。例のごとく、彼らの1匹が渡り廊下の真ん中で行く手を阻んでいました。情けないことに、私は動きが止まってしまいました。頭の中は「どうしよう。患者様が気付かずに踏んでしまったら・・・いや、それよりもまた突然動き出すんじゃないの?ていうか、なんであえて屋根のあるこの渡り廊下で休んでいるのよぉぉ。・・・うわっ、かすかに動いている!!頑張って!!土の上があなたの最期の場所でしょ?ここで私に怖がられたら、本望じゃないわよ」なんてことがグルグルと回っていました。

すると、ある男性患者様がそっとその蝉を捕まえ、グラウンドに放しました。さらにその間に他の男性患者様が私の手を取り走り出しました。蝉が怖いなんて、患者様にはお話したことがないのに・・・

精神科の患者様は人との交流がとっても苦手で気遣いが苦手といわれています。相手の気持ちがなかなかわからなかったり、場の空気を読み取ることが難しかったり。それなのに、人の視線が気になってしまったり、思うように気持ちを表現できなかったり。

でも、少なくともその男性患者様たちは、私の「蝉が苦手」に気付いてくださいました。長い間、本当に蝉が地中にいる期間よりも長い間入院をして、決まった人としか接したことがなかった人たちが、とっても自然なしぐさで守ってくださいました。

それ以来、私は蝉が怖くなくなり・・・なんて事はなく、やっぱり道端に転がっている彼らを見ると足がすくんでしまうのです。