医師 前田 浩利


sa-ca  梅雨が始まり、降り続く雨と湿った空気に、気分も何となく憂鬱になりがちですが、道ばたで雨に濡れながら美しく咲くあじさいが、憂鬱な気分をいくらか明るくしてくれるようです。松戸には、本土寺というあじさいで有名なお寺があり、そこの参道は往診によく使う裏道になっていますが、この季節にはあじさい見物の人波ができて、とても往診車は通れません。
松戸で仕事を始めて5年も経つのに、実は私はこのあじさい寺に詣でたことはないんですが、いつかはあじさい見物に行きたいなと思っています。

そうそう、この季節には、あじさいの咲いている季節限定で、船橋屋というくず餅で有名な老舗が、この参道に店を開きます。
本店は、亀戸にあるらしいですが、以前亀戸に住んでいらした患者さんのご家族からよく船橋屋のくず餅を頂きました。
しこしこした心地よい歯触りとさわやかな味わいが、まさしく夏の甘味という感じで、あまり甘いものを食べない私もこのくず餅はおいしく頂いていました。
残念なことにこの患者さんは亡くなられ、今では船橋屋のくず餅を頂くこともめったになくなりましたが、この船橋屋を見るとあの患者さんの明るい笑顔を思い出し、少し切ない気分になります。

そして、あじさいの花が散り、あじさい寺の人波も引きいつもの静かな参道に戻るといよいよ、夏の到来です。
よく、冬の往診は寒くてつらいでしょう。と、見学に来られる方から言われますが、私は、何と言っても夏の往診が一番つらい、と思っています。
往診に回る家はお年寄りが多く、エアコンをつけていないお宅が多いですし、停車した車に戻った時の車内の暑さは、ちょっと言いようがありません。
たまに、エアコンがついた家に伺っても、汗が引く間もなく外に出た時もつらいものです。
そして、1日に何軒も患者さんのお宅を伺うと、暑さ、涼しさの波状攻撃で、本当にふらふらしてきます。
数年前の猛暑の夏の最盛期、あまりのつらさに、一緒に往診に回っている事務職員とこっそり、ファミリーレストランでしばらく休んだこともありました。
もちろん、他の職員には内緒ということで、アイスクリームだか、パフェだかで買収したことはいうまでもありません。
でも、私は夏の往診も好きです。往診の合間に見上げた空の入道雲と真っ青な空のコントラスト、夏の日の夕方に一瞬吹くさわやかな風、こんな時、やっぱり往診稼業もいいな、病院の中で働いているとこんな季節の風物詩も味わえないよな・・と現金にも思ってしまいます。(浩)