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Most Impressive Case Report 2025.6 研修医B

Most Impressive Case Report 2025.6 研修医B

Cover letter 

Fanconi貧血と診断され、支持療法で経過をみていたが一段階病状が進展したため、改めて主治医からハイリスク移植をするか、移植をせず看取りとするか選択を迫られている1例を経験した。自宅でのわちゃわちゃした日常を守りたい一方で、治療を選択しないことへの不安や本人への負担を考え、揺れ動く家族に対して、メリット・デメリットを抽出し在宅医として介入できることをまとめた。

【症例】 10歳女児 Fanconi貧血
#1 Fanconi貧血
#1−1 汎血球減少(輸血依存状態)
#2 急性硬膜外血腫後の後遺症
#2−1 中枢性呼吸障害
#2−2 運動機能障害
#2−3 症候性てんかん
#3 尿細管性腎機能障害疑い
【現病歴】正期産で仮死なく出生。生下時より血小板減少を、3歳時より低身長を指摘されていた。 4歳3か月時に急性硬膜外血腫を発症し後遺症として中枢性呼吸障害、運動機能障害を残した。オンマヤ槽が留置されていたが髄膜炎のため抜去。水頭症に対しVPシャントが留置された。血小板減少に対しての精査でFanconi貧血と診断された。診断時点での造血幹細胞移植は困難であり、支持療法として定期的な輸血を実施していく方針となった。4歳4か月時に単純気管切開術。4歳11か月時に自宅退院し訪問診療を開始した。6歳時に胃瘻造設術。尿路感染症、肺炎、CVカテーテル感染、角膜潰瘍の既往あり。10歳時、骨髄検査で骨髄異形成症候群(MDS)の所見を認め、原病の進行が疑われた。病院主治医より急性白血病の前駆状態に進展していることが伝えられ、終末期ケアの必要性について説明された。
【医療資源】
・デバイス:気管カニューレ、人工呼吸器、胃瘻
・訪問看護:平日週5利用
・主治医:A病院 小児科(神経班、血液腫瘍班)
【家族構成】
父、母、妹(5歳年下)の4人暮らし
【ADL】
座位安定、いざりで移動 膝立ちまではできる
言語理解は良好で手話で会話する 絵を描くのが好き
【現在の治療】
・輸血
・トロンボポエチン受容体作動薬(経口造血刺激薬)
・予防的抗菌薬内服
・てんかん予防薬内服
・経管栄養(胃瘻)
・微量栄養素補充
・導尿

◼︎ Fanconi貧血

・DNA修復異常を背景に、進行性の骨髄不全症候群と固形腫瘍を合併する血液疾患
合併症
①進行性汎血球減少
②MDS /AMLへの移行
③身体の先天異常
④固形腫瘍(とくに扁平上皮癌が多い)
治療
・支持療法
・根治は造血幹細胞移植のみ
※病期が進展するにつれて移植成功率は低下していく

考察

移植 看取り
予後
・MDS発症:5年生存率50〜60%
・AMLへ進展した場合:5年生存率30〜40%
・MDS発症:約1〜3年
・AMLへ進展した場合:数ヶ月
メリット
・輸血依存・重症感染症を回避
・根治の可能性あり
・白血病に進展してから移植するよりは成功率は高い
・予後は長くて2−3年
・輸血頻度、重症感染症発生頻度が徐々に増加
・白血病へ進展した場合、確立した治療法は移植のみで成功率はさらに下がる
デメリット
・病院で過ごす時間が大幅に増える
・付き添い入院の場合、家族が別れて生活することになる
・前処置など本人への負担がかなり大きい
・ハイリスク症例➡︎感染など重篤な合併症リスクは通常より高い
・病院での看取り可能性がある
・予後は長くて2−3年
・輸血頻度、重症感染症発生頻度が徐々に増加
・白血病へ進展した場合、確立した治療法は移植のみで成功率はさらに下がる
在宅でできること
・治療中はセカンドオピニオン的存在としてサポート
・退院支援・退院後の生活のサポート
・輸血、感染予防
・苦痛(呼吸区・疼痛など)の緩和
・栄養管理
・自宅での看取り ・家族への心理的サポート

★家族の思い 「わちゃわちゃした日常」を続けたい
・現時点で今後の治療は決めきれていない
・移植は100%の治療ではないこと、完全一致するドナーに会えるかわからない
・低い可能性の中で治療にかけて病院で過ごすより、できれば自宅で今の生活を続けたい
・付き添い入院となった場合、妹を預けなくてはならない
・自宅での看取りとなった場合、本人の苦痛はどうなのかわからない点がある

妹への支援
妹は明るくはつらつとした性格で家庭の明るい雰囲気に欠かせない存在だ。今後姉が終末期に向かうにつれて弱っていく姿を見ることへのショックや両親の関心がこれまで以上に姉に集中することで寂しさや嫉妬、不安を感じやすくなる。学業や友人関係にも影響が出ることも考えられる。妹の感情を受け止め、1対1の時間を確保すること、年齢に応じた説明を妹へ行うことを家族に説明し理解してもらう必要がある。

Next Step
今後行うべきこととして、治療方針の選択、看取りの場所の決定があげられる。両親は移植をしなかった場合あと数年もしくはもっと短い期間で看取りとなること、終末期や看取りとなった場合のイメージを正確に理解できていない。在宅医は家庭と病院での生活の両方を知っている立場であり、今後想定される経過と終末期のイメージを在宅医から説明をすることが重要であると感じた。
また妹について、往診の際に家族に困っていることや変わった様子がないか気に掛けることで問題を早く抽出できるかもしれない。

感想

カルテを見た時に移植を選択しない理由は何だろうと疑問が浮かびました。実際にお家へ伺うと人懐っこくニコニコと遊ぶ患者さんと明るく持ち前の愛嬌で我々に話しかける妹さんがおり、両親が守りたいものはこの日常なのだと直接感じ取ることができました。実際に家庭に入れる在宅医は病院での姿しか見れない病院主治医との「かすがい」的な存在にもなられると学びました。私は学生時代にあおぞら診療所の存在を知り、研修できることを楽しみにしていました。同じ疾患でも多種多様で、患者さん自身も成長していくため一人一人にあった医療が大人以上に求められることがわかり、同時に難しさも感じました。また一つ一つの課題に患者さんと家族、医療チームみんなで一緒に考え解決していく姿が印象的で、寄り添い一緒に考え決めていくことで患者さんとの厚い信頼関係が築けているのだと感じました。

【参考文献】

・「医療的ケア児・者 在宅医療マニュアル: 実技動画つき 」前田 浩利 (著), 2020年
・日本小児看護学会. 医療的ケア児をもつ家族支援に関するガイドライン. 2020年
・造血幹細胞移植ガイドライン(第2版)遺伝性骨髄不全症候群,日本造血・免疫細胞療法学会,2018年 
・ Fanconi貧血診断ガイドライン(令和1年版). 厚生労働省研究班, 2019年