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Most Impressive Case Report 2025.7 研修医A

Most Impressive Case Report 2025.7 研修医A

【本症例を選んだ理由】

訪問診療に同行させていただく中で介護者の大変さを痛感していた。
親が主介護者であることが多い中、母親の不幸から祖母が主介護者となった家庭に遭遇し、印象に残ったから。

【症例】9歳11ヶ月男児
【現病歴】
 在胎40週4日、体重2520gで仮死なく出生した。8か月時から眼球偏位を伴う数秒から数十秒の全身強直発作が出現。脳波で左頭頂部に棘波を認め、内服治療を開始した。頭部MRIで両側裂脳症を認め、血尿、高CK血症が持続していたため遺伝子検査を行い、COL4A1遺伝子にde novoで病的バリアントを認めた。内服薬の調整を年単位で継続していた。
 常時上気道狭窄音があり、内視鏡検査で喉頭軟化症が確認されている。嚥下造影では明らかな誤嚥、咳嗽反射の遅延が確認されている。誤嚥性肺炎を反復し、気管支喘息のコントロールも不良でSpO2低下をきたすことが頻回になったため、2018年(3歳頃)に在宅酸素を導入した。喉頭気管分離術を提案されたが、母が希望しなかった。
2019年4月10日にA病院で胃瘻造設(pHモニタリングで有意な逆流をみとめなかったため噴門形成なし)。
 2023年11月17日に母が死去し、祖母が主介護者になった。通院の負担が多いことから訪問診療を提案され、2024年3月1日に訪問診療開始となった。
【既往歴】
喉頭軟化症、喘息、両側股関節脱臼
食物・薬物アレルギー:卵(詳細不明)
【家庭環境】
両親は幼い頃に離婚。その後母と二人であったが、母が2023年に死去。その後は祖母が主介護者。
【医療資源/移行期資源】
病院:A病院、B療育センター
ST:C訪問看護ステーション 看護のみ 月・金・土
相談支援専門員:D事業所
ヘルパー:E事業所 入浴介助
放課後等デイサービス:F
ショートステイ:G
薬局:H薬局 訪問薬剤管理指導
【訪問診療導入後経過】
2024年 6月13日~18日 A病院小児科に、誤嚥性肺炎、気管支喘息急性増悪のため入院 、その後J病院に転院して加療継続、退院。入院中に黒色便なし。
2024年11月6日~7日 A病院小児外科で上部消化管内視鏡検査を実施し、胃食道逆流と食道炎の診断。内服薬変更するもあまり変化なく、今後噴門形成術、胃十二指腸(GJ)チューブ、腸瘻を検討。
2025年 3月2日~12日 A病院小児科に、RSウイルス感染、誤嚥性肺炎合併の疑いで入院。TAZ/PIPC、PSL、HFNC管理で治療。
2025年5月21日 てんかん重積発作(20分)で救急搬送。自然鎮痙。
2025年6月1日~10日 ショートステイ中に嘔吐を繰り返しA病院に救急搬送。誤嚥性肺炎の診断でABPC/SBT 9日間。入院後5分間のけいれん発作があり、ミダフレッサで呼吸状態悪化したためHFNC装着された。その後気管支喘息急性増悪に対してアスプール持続吸入やPSL投与を行い、退院時にブデソニド吸入増量(500µg 1日2回)、メプチンDS処方された。 
【デバイス】
胃瘻、酸素、呼吸器(BiPAP Smode)

【現在の問題点】

病態
#1,裂脳症、難治性てんかん
→フェノバルビタール、ラモトリギン、ラコサミド、ペランパネルの多剤併用療法で調整しているが、コントロール不良。
#2,胃食道逆流症・食道炎・胃出血・誤嚥性肺炎
→エソメプラゾール内服。11月頃にGJチューブを検討している。
#3,喘息 
→ロイコトリエン拮抗薬内服+ブデゾニド吸入(500μg/回、1日2回)

社会的問題
・高齢の祖母が主介護者に突然なったことによる介護の負担増加。介護・医療知識不足やサポート不足。(祖父の関与は不明)
・医療、介護に関連した金銭的問題
・教育の問題
・外出・交流問題

【考察】

もともと祖母は母が仕事の時は介護を手伝っていた。しかしながらいきなり主介護者になり、介護への不安は大きいように感じた。どのようなサポートが必要か考えた。
 まずは医療・保健分野として、訪問診療、訪問看護、かかりつけ病院、レスパイト入院が挙げられる。今回のケースではレスパイト入院が追加でサポートできると考えられた。次に福祉分野として、訪問介護、移動・行動支援、入所施設などが挙げられる。今回のケースでは今後祖母が介護できなくなった場合に施設入所などが考えられる。教育分野としては、特別支援学校・学級、訪問学校、通学支援が挙げられる。今回のケースではK学園に通学している。経済分野としては特別児童扶養手当、小児慢性特定疾病医療費助成などが挙げられ、適宜情報提供や経済状況の確認など必要と考えられた。今後医療ケア児が増えるにあたり、同じようなケースは増えていくと思われる。相談支援専門員を活用したり、子ども版地域包括ケアシステムの構築の重要性がより増していくと考えられる。

【実習の感想】  

 初めて訪問診療を経験させていただき、普段病院にいるだけでは見えてこない新たな視点、考え方を学ばせていただきました。医療的ケア児の介護者の大変さ、周りのサポート体制の重要性、社会制度など初めて経験させていただき、大変勉強になりました。特に小野澤先生の「在宅医療は街づくり」という言葉が記憶に残っています。医療的ケア児、その親が社会から孤立しないように活躍されていることを初めて知って重要性を認識できました。
 今回学ばせていただいたことを今後の医師人生に活かせたらと思っております。最後になりましたが、お忙しい中実習に関わっていただいたすべての方に感謝いたします。本当にありがとうございました。

【参考文献】

令和5年度在宅医療関連講師人材養成事業 厚生労働省