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Most Impressive Case Report 2025.11 研修医A

Most Impressive Case Report 2025.11 研修医A

【Cover letter】

BCP-ALLの再発寛解を繰り返し、胃管チューブ挿入による参加制約を認めた症例を経験した。小児の在宅医療において、単なる医学的管理だけでなく、本人の「社会参加」と「発達」を阻む複雑な要因(器質的・心身的・社会的障壁)に対し、多職種チームとしてどう支援すべきかを考察した。

【症例】4歳女児 B前駆細胞型急性リンパ性白血病 第4寛解
#1     急性リンパ性白血病
#1⁻1 乳児(生後10か月)発症
#1⁻2 KMT2A再構成陽性
#1⁻3 t(11:19)(q23;p13.3)
#2    気管支喘息
【現病歴】
2022年12月19日にB前駆細胞性急性リンバ性白血病中間リスク群と診断。化学療法で寛解したが、2024年4月18日  BCP-ALL(乳児期初発、KMT2A再構成陽性)の第2再発(骨髄単独)と診断。PSL, Blinatumomab, Inotsuzumabで寛解後に移植を予定していたが、8月の移植前スクリ ーニングで縦隔に腫瘤を認め、生検の結果、髄外単独再発(第3再発)と診断。2024年10月16日に骨髄移植を実施。移植後11月5日に生着が確認されたが、 VODによる腹水により呼吸状態が悪化しPICUに入室し気管切開を行った。以降呼吸状態安定し呼吸器離脱でき、カニューレも抜去できた。呼吸器離脱以降、嚥下を試していたが、嚥下に対する恐怖心から嚥下が進まず経腸栄養を継続していた。今年の3月の骨髄検査にて原疾患の寛解は確認できているが、消化管GVHDに対する治療として、プレドニン 3mg/dayで内服加療開始し、その後ゆっくり漸減中。
呼吸に関しては安定しており、7月1日に呼吸器離脱、7月29日にカフなしカニューレに変更、8月14日にカニューレ抜去している。
また、今年の8月2日頃より両膝の関節痛を訴え始め、ステロイドの長期投与歴もあることから両膝関節および股関節のMRIを撮像したが、明らかな骨壊死の所見は認めなかった。
2025年9月18日に当院初回往診。現在PSL0.2錠/分2、呼吸状態安定しており、経鼻チューブ挿入中である。
【医療資源】A病院、ST:B、リハビリ:Bステーション
【医療デバイス】胃管(6Fr )
【家族構成】父、母、兄、妹の5人暮らし
【ADL】歩行可能、兄弟と走り回る、公園で遊ぶ、保育園(保護者付き添い)
ジャンプなど膝に負担がかかる運動は禁止
【現在の治療】経管栄養
【現在の栄養メニュー】
07:00 エネーボ250cc+ソリタ水50cc ポンプで1時間注入
12:00 エネーボ250cc+ソリタ水50cc ポンプで1時間注入
16:00 ソリタ水100cc ショット注入
19:00 エネーボ350cc+ソリタ水50cc ポンプで1時間注入
*嚥下は水分まで可能
固形物は口に含み、咀嚼までできるが嚥下できない

【国際生活機能分類による検討】

医学的状態とICFによる課題の再評価

本症例は、呼吸・栄養状態は安定している。
しかし、ICFで評価すると、最大の課題は「保育園での単独集団生活が困難」という『参加』の制限である。
その根本原因は「固形物の嚥下困難」による「経管栄養チューブ」の存在である。
背景には、消化管GVHDの影響による嚥下時の持続的な違和感が、物理的な食べにくさの原因となっている可能性と、器質的な違和感がきっかけで、食体験の不足、他児の前での食事拒否、母親の焦りといった心理的ストレスが重なり、食への抵抗感が定着している可能性がある。

4歳児の発達における「保育園」の重要性

患者は4歳であり、この時期の保育園生活は、単なる「預かり」ではなく、他者とのコミュニケーション、ルール、協調性といった「社会性」を学ぶ最も重要な場であると同時に、本症例にとっては「食行動を再学習する場」という二重の意味を持つ。
保育園の他児をみて本人の食事への意欲が湧くことを期待できる。

《家族への支援》  

両親:患児の保育園への「付き添い」が発生することで、親(特に母親)の身体的・時間的拘束が増大。
兄妹:親が患児の付き添いに時間を取られることで、親と過ごす時間が物理的に減少。

家族全体のバランスにも目を配り、レスパイトケアや 公的支援の導入を検討し続ける必要がある

《考察》  

本症例の第一印象は「4歳児として非常に元気」であり、なぜ経管栄養が必要か疑問に感じた。しかしICFで評価すると、「経管栄養チューブ」の存在が、本人の「保育園での集団生活」という最大の『社会参加』を妨げていることが明らかになった。問題の焦点は、筋力低下よりも「なぜチューブが抜けないか」であり、背景に「心因性の嚥下障害」が疑われた。
この経験から、小児在宅医の役割とは、安全な医学的管理だけでなく、患児の「発達」と「社会参加」を阻害している根本要因を見抜きだすことだと学んだ。これは、成人在宅医と大きく異なる面だと思った。
今後は臨床心理士や保育園、保健師、行政、ケースワーカーとより密に連携し、本人の「食べたい」意欲と「通いたい」環境を整える支援が最重要であると考える。

《感想》  

在宅で生活するお子さんやご家族と直接関わる中で、病院にいるだけでは得られない、全く異なる視点から多くのことを学ばせていただきました。病気を治すことだけでなく、退院後の生活や「発達」、そして「社会参加」という課題に対し、ご家族と医療者が一体となって支援していくプロセスを間近で拝見し、非常に感銘を受けました。
この貴重な経験を活かし、今後の医師生活に邁進してまいります。お忙しい中、ご指導いただきありがとうございました。

【参考文献】  

・厚生労働省ICF(国際生活機能分類)−「生きることの全体像」についての「共通言語」
・医療的ケア児・者 在宅医療マニュアル 南山堂