Most Impressive Case Report 2026.1 研修医B
Most Impressive Case Report 2026.1 研修医B
#上気道閉塞、舌骨上方偏位、舌根沈下
#筋緊張亢進
#嚥下機能低下、慢性誤嚥、誤嚥性肺炎
#症候性てんかん
#不眠(トリクロールシロップ使用)
#側弯症、二次性胸郭変形
【症例】 9歳女児 周産期の低酸素性虚血性脳症
【周産期歴】 2017/5/12に早産新生児仮死(36w4d、2094g Apgar3/5)で出生
【現病歴】周産期の低酸素性虚血性脳症の女児。在胎36週4週間、体重2094gで早産新生児仮死で出生。出生後はA病院のNICUで管理されており、日齢1まで人工呼吸器管理であった。胃食道逆流と食道裂孔ヘルニアあり生後4ヶ月時に胃瘻増設した。筋緊張低下と難聴もあり。1歳10ヶ月時に地方から東京に転居し当診療所での訪問診療を開始した。同時期に急性呼吸不全(CO2ナルコーシス)での入院を契機にBIPAP導入となった。
【家庭環境】6歳の時に両親離婚、現在母が主介護者。両親医師。
【医療資源】病院: B病院小児科、C病院、D病院(ボトックス) リハビリ、看護:E訪問看護ステーション、障害児訪問保育F、あおぞら診療所リハ、デバイス: 人工呼吸器、spo2モニター、胃瘻、加温加湿器、排痰補助装置
【大島分類】1
【超重症児スコア】超重症児:人工呼吸器(10)+頻回吸引(8)+ネブライザー(3)+経管(5)=26点
【身体所見】体重11.7kg(-3.0SD), 身長110cm(-3.8SD), SpO2 96%(呼吸器あり、RA),胸郭変形強い、呼吸音やや粗、分泌貯留音軽度、Stridor, wheezeなし,
ADL:寝たきり
【訪問診療導入後経過】
2018年
3月に訪問診療開始、直後にCO2ナルコーシスによってB病院入院、BiPAP導入となった。当時から浅く不規則な呼吸と高EtCO2あり。
2021年
痰によるSpO2低下が散見され、筋緊張亢進が進行しリオレサールを2→3mgに増量。
2022年
変わらず痰によるSpO2低下あり、次第に呼吸状態悪化したため終日BiPAP装着となる。この頃より夜間は呼吸器に同調することが増えた。
8/29の検査入院の結果では喉頭ファイバーでは喉頭軟化症なし、仰臥位は舌根沈下目立ち禁止、横臥位可能。アデノイド問題なし、嚥下機能低下あり。
10/18の診察では筋緊張強く、胸郭変形の進行あり。リオレサール増量を検討。
10/25 有熱性痙攣重積発作、ジアゼパムへの反応不良であり救急搬送。入院中にイーケプラ開始となり筋緊張改善した。
2023年
就学後、しばらくは学校でもBiPAPを装着していたが着脱困難である等の理由から学校では装着しないようになった。
5/2にリオレサールを3mg→4mgに増量。
10/10時点では学校での痰の処理や垂れ込みが多く吸引が大変であった。
2024年
1/9、夜間入眠時の不随運動を主とする発作あり、緊張も強くリオレサールを4mg→5/6mgに増量。
1/13には気道感染、排痰不良の増悪、無気肺のエピソードあり(不随意運動+緊張でコントロール不良→ダイアップの鎮静で呼吸器が上手く使える様に→ダイアップによる呼吸抑制でNPPV離脱後すぐに酸素化低下)
4月 学校ではNPPV装着できない状態がつづき、帰宅後に疲労と排痰不良が続いた。
5/28、リオレサールを8mgに増量, テルネリン0.1mg開始。
7/9、 下顎挙上なしではSpO2 80%に低下。レキソタン開始。頚部の緊張に対し頚部ボトックス検討。
2025年
4/1、分泌物誤嚥による窒息で入院。
4/30に初回の頭頸部ボトックス100単位を施行。
5/20に右下肺野肺炎で入院。
10月に肩周りボトックス(呼吸筋)施行。
【経過のまとめ】
訪問診療開始当初より筋緊張呼吸と浅呼吸EtCO2貯留を認めBiPAP導入となった。年々筋緊張亢進が増悪し、抗痙縮薬の増量調節を行ったが効果は限定的であり、筋緊張亢進が呼吸障害に影響していると考えられた。薬剤調節、BiPAP装着延長にてもEtCO2高値は継続し、ときに肺炎での入院を要した。気管切開は家族の方針により行わない方針となった。頭頚部、肩周囲のボトックスにより筋緊張緩和、呼吸障害の緩和が期待されたため導入し、効果をフォローしていく予定である。
【考察】脳性麻痺患者の痙性斜頸に対するボトックス治療について
A型ボツリヌス毒素は痙性斜頸や脳性麻痺の尖足痙縮、上肢・下肢への痙縮への適応がある。筋注された毒素は,神経筋接合部でアセチルコリンの放出を不能にする作用により,筋肉を麻痺させることができる。また、伸張反射を減弱させ筋緊張を軽減する効果もある。効果は数日で頂点に達し約 2~5 カ月間持続する。重症の場合、拘縮や変形の予防を治療目標にできるかは不明であり、筋肉の萎縮・線維化あるいは関節拘縮を認める場合には、治療の有効性は低下する。また、嚥下機能が低下している患児へ、特に痙性斜頚の治療を行う場合には,一過性に嚥下困難が増悪する可能性がある。投与上限量は小児の尖足痙縮では 200 単位,痙性斜頚では 240単位、下肢痙縮では 300 単位、上肢痙縮では 400単位となっている。複数の適応症を一度に治療する場合でも、投与する総量は400単位を超えてはならない。小児では上限量はおおむね 15 単位/kg、嚥下呼吸障害をもつ小児では、12 単位/kg に減量すると比較的安全である。量不足による治療効果の不十分さを認めれば,手術療法への移行を検討することもある。重度の四肢痙縮,あるいは後弓反張や脊柱側屈などの比較的全身性の筋緊張異常を認め、自力移動が困難な患児では,バクロフェン持続髄注療法への移行も考慮される。国内でのいくつかの施設では脳性麻痺小児患者の筋緊張亢進に対してボトックス治療を行った症例の検討を行っている。これらの症例検討にてボトックス注射後には斜頸等の要因による上気道閉塞による呼吸障害の改善を認めている。一方、何例かでは一時的な唾液分泌物の増加や嚥下障害を認めており注意が必要である。本児では特にボトックス注射前後での客観的な呼吸障害の程度を評価はしていないが、母やリハビリスタッフ、外来主治医の主観ではボトックス注射後は後頚部の筋緊張は和らいでおり、閉塞性呼吸障害も改善しているとのことである。しかし、上記の症例報告でも考察されているように、罹患期間が長くなると筋肉収縮だけでなく周囲の軟部組織も線維化して骨性の側轡に至り、不可逆性となるためボトックス注射の効果は乏しい。本児でもボトックス注射開始時にはすでに罹患期間が9年ほどになっており、不可逆的な拘縮や変形がある為治療効果は限定的と予想される。
【本症例の感想】
本症例に興味を持ったきっかけは、脳神経内科でもよく使う治療法であるボトックス注射が脳性麻痺の患者さんにとって実際にどれくらいの効果があるのか気になったからです。本児では抗筋緊張薬を多剤使用した上で頸部の筋緊張亢進に伴う閉塞性呼吸障害があり、治療介入が急務であると感じました。家族の希望で気管切開は行わない方針であり、その事により余計呼吸状態が悪化した側面もあると感じました。気管切開を行わないという決断の裏にはどの様な家族の葛藤があったのかとても気になりました。その上で今後の診療において患者さん本人やご家族が大きな決断をしなくてはならない際には客観的な事実だけでなく今後の生活まで想像し寄り添える必要があると感じました。
【研修全体の感想】
初めて訪問診療を経験させていただき、病院では見られない患者さんの様子や患者さんに合わせた診療の仕方を学ぶことができました。あおぞら診療所のスタッフの方々が常に患者さん一人一人の生活に寄り添ったケアを模索し実行している事はすごい事だと感じました。この1ヶ月の経験で患者さんの日常生活を念頭に治療を継続するという視点を得られました。また、私自身は内科に進む為子供を診る機会は少ないかと思いますが、大人になった神経難病の方や脳性麻痺の方などと関わる機会は多くあると思います。その点でも彼らがどの様なケアを受けてどの様に育ってきたか学ぶ機会を頂けて感謝しております。
1ヶ月間同行させて頂いた先生方、PA、ドライバー、看護師、リハビリの方々に感謝致します。
【参考文献】
1) 根津敦夫:肢体不自由児における神経ブロック、Jpn J Rehabil Med 2020;57:599-603
2) 日本リハビリテーション医学会:脳性麻痺リハビリテーションガイドライン 第2版
3) 橋本奈美子:頸部の筋緊張亢進に伴う異常姿勢における呼吸障害に対するA型ボツリヌス毒素療法の効果、
脳と発達 2012 44 13-18
4) 足立昌夫:重症心身障害児(者)の痙性斜頸・過緊張に対するA型毒素療法の初期効果、脳と発達 2006 38 425-430