Most Impressive Case Report 2016.01 研修医B
Most Impressive Case Report 2016.01 研修医B
【症例】1歳0ヶ月男児
【診断】#13 trisomy、#臍帯ヘルニア、#大動脈縮窄症、#ASD、#両側口唇口蓋裂、#両側停留精巣、#正中部頸嚢胞、#先天性脳梁欠損s/o、#その他(小泉門頭部欠損、顔面血管腫、眼科的異常)
【経過概要】
母体は39歳3経妊2経産。在胎38週1日, 2382g, Ap7/9で出生。出生直後より啼泣あるも続かず、一時的に補助呼吸施行。数時間で自発呼吸は安定しNICU入室した。NICU入室後しばらく補助呼吸を必要としたがその後呼吸補助なく管理可能となった。
その他、臍帯ヘルニアが認められたものの日齢1に根治術施行し、術後1日目より経腸栄養開始した。その後特にトラブルなく経過している。
日齢2に動脈管閉鎖し、心房中隔欠損症は存在するが小さく、循環動態に異常を来す程ではなかった。大動脈縮窄症は軽症で、こちらも循環動態に異常を来す程ではなかった。ともに無治療で経過観察の方針となった。
主な問題は啼泣時のSpO2低下, チアノーゼであり、これに対しHOT導入し生後1ヶ月7日で自宅退院の運びとなった。
【超重症児スコア】
HOT8点 吸引1日6回以上3点 経管栄養5点 体位交換1日6回以上 3点 計19点 準超重症児
【家族背景】
母:30代、まじめな性格で妊娠5ヶ月頃うつ病を発症。かかりつけの心療内科クリニックに通院し、児の出産時には状態安定していた。児の出産まで会社勤務をしており大きなプロジェクトも任される状態であったため、育児に専念してこのまま社会と隔離されて生きていくことにも自信がない、との言葉もあった。親戚に障害児を受け入れる気持ちがなく、酷い言葉をかけられることもあった。
父:40代、会社員。母方の親戚との窓口は父。親戚から心ない言葉を受けて傷ついたが、母方の祖母に児の姉達の面倒をみてもらわなければ児の病院にも行けないため、板挟みで辛かったと。職場で児のことを話し、休みを調整することが辛かったとの言葉もあり。
上記の言葉もあったが両親の愛着形成は良好。A大で「生きて産まれてくるとは限らない、産まれてもすぐ死亡する」と言われていたので、一緒にいられる事に大きな喜びを感じていると。
長姉、次姉の4人暮らし。
【医療デバイス】 HOT 2L、吸引器、SpO2モニター、胃管チューブ
【栄養】自律哺乳:経口+経管1日70ml×7回 自然滴下
【医療やケアのスケジュール】
退院後の定期外来はBセンター新生児科(成長、発達)、小児科(心臓)、眼科でフォロー。あおぞら診療所新松戸の月2回の往診、平日毎日訪問看護の予定。
【往診導入後経過】
退院後BIPAP導入し状態安定していたが、チアノーゼ発作が頻発し、生後2ヶ月5日に蘇生を要するエピソードがあり入院。入院後呼吸状態改善し一度退院したものの、再度のチアノーゼ発作で呼吸状態増悪し再入院。上気道閉塞, 気管気管支軟化症の診断でNPPVだけでは管理が難しいと考えられ、生後2ヶ月27日に気管切開を施行した。
気管切開施行後、安静時一時的に呼吸器をはずすことが可能な程度となった。啼泣時にSpO2が低下することが1日に数回あり、アンビューに酸素をつないで用手換気を行って対応としていた。その後の経過で用手換気の回数は減少傾向となった。
生後6ヶ月3日で退院し、その後上気道感染数回あったものの呼吸状態の著明な増悪なく良好に経過している。現在チアノーゼ発作は啼泣に伴い出現するが、抱っこしてあやすと30秒以内に回復する。
経鼻チューブからのミルク注入1回量を増量、回数を減少させて(1回につき130mlを1日5回)ポンプを使って1時間かけて注入している。体重6995gと増加認められ栄養状態は良好と考えられる。ミルク以外にもおもゆ、オリゴ糖、野菜スープ、1/2ヤクルトなど、少量ずつ経鼻チューブから注入を試している。ミルクやオリゴ糖を口から匙で舐めさせており、嫌がらず舌を動かし舐める仕草あり。
【考察】
- 生命予後
13トリソミーは1万人に1人の割合で産まれ、1年以上生存できる児は10%以下と言われている。1歳を越えて生存している児の報告は多数あり、日本の症例報告では最高齢で19歳がある。患児は今月で1歳を迎えたところであり、呼吸状態も改善傾向である。13トリソミー児の主な死因として中枢性, 気道閉塞無呼吸、呼吸器感染症、心奇形による循環不全が挙げられるが、患児は中枢性無呼吸の頻度が高い1歳未満を超え、気道閉塞に対しては気管切開という医療的な介入を行っている。更に現時点で患児の心奇形は治療に緊急を要する重度のものでなく、以上のことから患児の生命予後は必ずしも悪くないと思われる。
今後の生命に関する注意点は、心奇形が重度でない現在、主に呼吸状態についてである。発作の回数が減少し呼吸状態は改善傾向であるが、気道感染に伴う呼吸機能の急激な増悪が起きる可能性もあり、今後も感染の経過には注意が必要。
- 栄養に関して
手術可能な年齢となったこともあり、今後の経口摂取を進める観点からも口蓋裂の手術が要検討と考えられる。離乳食を開始しているが、経口摂取での栄養摂取状況によっては胃瘻造設などの対処も将来的に必要か。
- 発達・その他
全体的な発達については、健常児に比すと遅いものの緩徐に発達していく可能性は高い。現在経口摂取や離乳食を試しているように発達段階に合わせて対応していく。その他眼疾患に関しては、視力を得ることは困難であると考えられるが、緑内障に対して今後手術が必要となってくる可能性がある。
- 家族のケア
往診時にはまめに患児のケアを行っている姿を見るのみで垣間見ることはできなかったが、先日母がうつ症状が辛いために朝のケアができず姉がかわりにケアを行ったとの例もある。母の精神的なケアや、姉達も含めた子供たちの様子をみていく必要がある。
【感想】
研修させていただいた中で、思っていた以上に患者さんとの関わりが深く驚かされました。こちらに来るまでは病院での医師・患者関係が少し密になったもの、という漠然としたイメージでいましたが、患者さん本人のみならずご家族の方々に対しても医師,看護師,医療・介護スタッフが治療に対する希望や不安,家族背景を傾聴し情報収集しているところを目にすることができました。病院での研修では今までできていなかった、患者さんの背景に個別に対応するという姿勢を学ぶことができたように思います。