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Most Impressive Case Report 2016.07 研修医A

Most Impressive Case Report 2016.07 研修医A

【症例】 81歳 男性
【診断】
#十二指腸潰瘍術後(1947年 B-Ⅱ再建)
#膵癌 十二指腸浸潤疑い
#十二指腸狭窄
#閉塞性黄疸
【往診までの経過】
嘔気、嘔吐、食思低下で2016年1月より他院入院。1月18日のガストロ注腸および腹部CTにて十二指腸潰瘍術後の吻合部狭窄を認めた。
2月3日に消化管ステント留置術を行い、経口摂取は全粥1/2量まで可能となった。
ステント留置時の狭窄部生検でadenocarcinomaを検出した。
また、退院直前採血では肝胆道系酵素の上昇、T-Bil 3.0の黄疸を認めた。同院への通院困難のため、当院での訪問診療導入となった。
【生活歴】
<ADL>伝い歩き。食事中での座位保持がやっと。ほぼベッド上で過ごしている。会話は可能。
<排便>トイレで3日に1回排便あり。
<食事>3食おかゆ、くず湯
【家族背景】
妻と二人暮らし。妻は元看護師。再婚どうしで、お互いに妻、夫を亡くしている。
【医療デバイス】 なし。
【医療資源】
訪問診療、訪問看護、ケアマネージャー、訪問マッサージ、訪問入浴、介護保険
【退院時処方】 ホクナリンテープ、ガスモチン

【訪問診療導入後経過】

膵癌末期であり、悪液質著明であった。
デカドロンの内服を1mg/dayより開始した。
疼痛や呼吸苦は目立たず、ベースのオピオイドは必要ないと考え、ロキソニン、オプソ屯用で対応することとした。
左側腹部疼痛、呼吸苦は時折見られ、オプソ 0~3回の使用となっている。使用後は症状は落ち着いている。

【現在の処方】

デカドロン錠 0.5mg 2T2X
オプソ内服液 5mg 2.5mL 1回1包 疼痛・呼吸困難時
ロキソニン錠 60mg ムコスタ錠 100mg 疼痛時
エネーボ配合経腸用液 250mL 1日1個
マグラックス錠 330mg 4T2X

【7月8日往診時対応】

7月8日朝に500mLほどの緑色嘔吐があった。その後は気分不快なかった。
排便はあり。全身黄染あり、腹部平坦・軟 腸蠕動音正常で腹部所見は乏しい。
下腿浮腫あり。末梢冷感なし。
デカドロン 3.3mg + プリンぺラン 10mg点滴静注した。今後も嘔吐続くようなら、サンドスタチンの投与も検討することとした。

【往診後】

7月9日からは、デカドロン 1mg2X→2mg2Xに増量した。
食欲あり、調子も安定した。排便も出ていた。
食事量は少ないものの、7月14日に嘔吐少量あったのみで、その他の日に嘔吐は見られていない

【消化管閉塞について】

1.消化管閉塞の治療
①胃管、イレウス管
②バイパス手術、内視鏡的ステント留置術などの手技
③薬物療法
④輸液(1000mL+異常喪失量/dayを目安に行う。2000mL/day以上の輸液は腹水、浮腫などを悪化させることが多い)

2.癌に伴う手術不可能な消化管閉塞の患者に対しての薬物治療
①酢酸オクトレオチド(サンドスタチン®)
②デカドロン
③その他の制吐薬の投与・・・ブチルスコポラミン臭化物、ハロペリドール、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、メトクロプラミドなど。ただしメトクロプラミドは不完全閉塞または、麻痺性で、かつ疝痛が無い時のみ使用し、症状増悪時には速やかに中止する。

今回の症例では、嘔吐・嘔気の改善のため、デカドロンを使用し、さらに、排便あり、腹部所見が乏しく、消化管の不完全閉塞と考えられたので、メトクロプラミド(プリンぺラン®)を併用した。

3.酢酸オクトレオチド(サンドスタチン®)の有用性
オクトレオチドはブチルスコポラミン臭化物と比較して、手術不適応な消化管閉塞に対して、嘔吐回数、嘔気の持続時間、胃管排液量のいずれも優位に改善を認めた。(Mercadante S, Casuccio A, Mangione S.Medical treatment for inoperable malignant bowel obstruction:a qualitative systematic review. J Pain Symptom Manage 2007;33:217-23より)

よって手術不能な消化管閉塞に対して強い推奨がある(1B)。
基本の使用法は、サンドスタチン®持続皮下注射 0.3mg/day(経静脈的使用と間欠的皮下注射は保険適応外使用)

【感想】

在宅医療では患者様本人だけでなく、患者の家族とも密接にコミュニケーションをとることが必要であると感じた。例えば、患者様には、自分の意志を伝えることができない方や認知症で自分の身体異常を感知できない方も多くおり、その場合の異常や状態変化は患者家族の方からの訴えが重要な情報となることを体験した。

また、訪問診療では、採血、心電図などの検査を頻繁に行うことは難しく、結果がでるのも時間がかかってしまう。そのため、治療を早く行わなければならないような緊急性のあるものなのかそうでないのか、あるいは検査をするべきなのかしなくてよいのかの判断が非常に重要になると感じた。その判断のために、バイタル、身体所見を正確にとって評価できることの重要性を改めて痛感した。

今回の研修を経て、患者との信頼関係を築くことができ、身体所見をおろそかにしない診療ができればと思っている。

参考文献:癌患者の消化器症状緩和に関するガイドライン