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Most Impressive Case Report 2016.09 研修医A

Most Impressive Case Report 2016.09 研修医A

【症例】 72歳 男性
【診断】 # 右肺上葉扁平上皮癌
【往診までの経過】
2014年12月、A病院受診され、右肺上葉扁平上皮癌(cT4N2M0 stage3B)と診断された。
2015年1-4月、放射線治療(60Gy/30Fr)を施行したが、同年12月、原発巣の増大を認めた。
2016年1-4月より化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル 合計4クール)を施行するも効果に乏しく、Best Supportive Care、緩和ケアの方針となり、
2016年8月に退院、当院初診となった。
【生活歴】
<ADL> 呼吸苦あり。特にトイレなどの労作後に呼吸苦の増悪あり。室内歩行可能だが、臥位が多い。
<排便> トイレ自立している。
<食事> 食欲乏しいが、3食何とか食べている。
<入浴> 毎日、妻の見守り下で施行も、徐々に困難。
<睡眠> 睡眠はトイレ頻回であまり熟睡感なし。
【家族背景】
妻と長男と同居。妻は、火・木・土が午前外出。長男はキーパーソン、都内勤務、日曜休み、平日は21時頃帰宅。次男は市内で仕事されており、都内在住。
【医療デバイス】
在宅酸素 安静時2L 労作時3-4L
【医療資源】
要介護2、ケアマネージャーあり
【退院時処方】
ゾピクロン(7.5)1T1x眠前、メチコバール(500)3T3x、
カルボシステイン(250)6T3x、マグラックス(330)6T3x、コデインリン酸塩(20)6T3x、ナイキサン(100)3T3x、ブラダロン(200)3T3x、オプソ(5)呼吸苦時1P、
ノバミン(5)嘔気時

【訪問診療導入後経過】

呼吸苦、悪液質による倦怠感が進行していた。呼吸苦にはオプソ5mg頓用を継続し、1日4-5回の使用にて改善を認めている。また、オプソ導入に伴い他の鎮咳薬(リン酸コデインetc.)は内服中止とした。悪液質には往診初日にデカドロン1.65mgを皮下注し、翌日より1mgから内服開始した。その後、食欲や倦怠感は改善傾向にある。

嘔気症状はないが、出現時はノバミン内服とする。

便秘に対しては予防目的にマグラックス330mg 3T3x毎食後内服開始したが、8月末に下痢症状認め一旦中止としていた。しかし、その後改善を認めたことから2T2x朝夕にて再開し、便秘や下痢症状なく経過している。

眠気は内服後認めるが、増悪していない。

往診初日に口腔内カンジダ症認められ、フロリードゲル処方されたが、現在は消失している。

丸山ワクチンの接種希望がご家族からあり、9月1日に購入され、9月2日より週に3回(月水金)で開始されている。

【現在の処方】

1、デカドロン錠0.5mg 2T1x 朝食後
2、オプソ内服液5mg 2.5ml  疼痛時、呼吸苦時
3、マグラックス330mg 2T2x朝夕食後

【9月23日往診時対応】

疼痛:間欠的疼痛。四肢が多い。非常に緩徐。RAS2/10
呼吸困難:変化なし。動き始めのみ。オプソ3-4回/日。
嘔気・嘔吐:なし。ノバミン残あり。使用していない。
便秘:2日に1回程度。普通便。お腹のはりもない
睡眠:不眠あり、眠剤時々内服している。不快はなし。
概して状態安定していた。ナイキサンは発熱なく疼痛も緩徐であることから一旦中止とし経過観察の方針とした。

<丸山ワクチン処置>
丸山ワクチンは前回Aを右に皮下注射されていることを確認し、今回は「B」を左上腕外側に皮下注射した。

【丸山ワクチンについて】

<丸山ワクチンとは>
丸山ワクチン(Specific Substance Maruyama, SSM)は、日本医科大学皮膚科教授だった丸山千里博士が開発したがん免疫療法剤。ヒト型結核菌から抽出されたリポアラビノマンナンという多糖体と核酸、脂質である。

<機序>
ワクチンの結核菌抽出物が樹状細胞を活性化させ、それにより樹状細胞がキラーT細胞などの他の免疫細胞を活性化し、がん抑制効果をもたらすのではないかと考えられている。

<使用方法>
基本的には隔日投与で(A), (B)を交互に投与する。
場合によっては週に3回(月水金)で投与する。
開始時期は問わない。使用期間は最初の3年は隔日または週3回投与をし、以後は病状にあわせて適宜漸減する。

<費用>
有償治験の費用は、 1クール分(通常はA=10本、B=10本、隔日注射により40日分)につき、9,000円+消費税=9,720円です。この外に診療施設に支払う注射料(技術料)、文書料(経過書作成)等が必要。約1万円/月x12月=年間約12万円

<エビデンス>
長らくエビデンスは存在せず、それゆえ厚生労働省でもExperts Opinionのレベルに過ぎないとの見解で今だに未承認となっている。

しかし2013年にstage3Bの切除不能子宮頸癌に対してのPhase2-3ランダム化比較試験が施行され、P=0.0737と統計学的有意差はないものの5年生存率が介入群で75.7%、プラセボ群で65.8%と10%の上乗せをみせている。有意差が出なかった原因として両群の生存率が予想以上に良かったことを挙げている。また、丸山ワクチンと同等量の0.2μgと既に承認されている「アンサー」と同等量の20μgとその倍量の40μgで比較試験を行っているが、そこで0.2μgの低容量の方が高容量の他の群よりも効果が大きかった。

出典:

Sugiyama T, Fujiwara K, et al. Phase III placebo-controlled double-blind randomized trial of radiotherapy for stage IIB-IVA cervical cancer with or without immunomodulator Z-100: a JGOG study. Ann Oncol. 2014 May;25(5):1011-7. doi: 10.1093/annonc/mdu057.

【感想】

1ヶ月間のあおぞら診療所新松戸での在宅診療研修でまず1番に感じたことは、エビデンスや医学的な理想と患者やそのご家族の望む医療の理想は往々にして一致しないこと。感染症治療や血糖管理、疼痛管理など、多くの場面で実感することが多かった。病院医療しか知らなかった私は前者を重く捉えていたゆえ、最初は「在宅」は医療資源の限界がある中で行える、ある種妥協の医療ではないかと感じていたが、両方の理想も同等に大切であると実感する今は、双方をバランス良く考慮して行う在宅医療は「真の意味でのEBMの実現が求められた医療」だと思っている。また、2つ目に感じたことは家族や自宅という環境の力の大きさである。来年から救命に進むが、退院後、少しでも今までの自宅での家族との生活に近づく環境作りに配慮した医療、退院支援をしていければと思った。