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Most Impressive Case Report 2018.11 研修医A

Most Impressive Case Report 2018.11 研修医A

【症例】 12歳 男児
【診断】 橋神経膠腫
【現病歴】
2017年10月 感冒後に嚥下障害、構音障害あり
11月 脳神経障害症状、左不全麻痺が進行
          頭部MRIで脳幹部腫瘍を認めた
           A病院紹介受診
           橋神経膠腫と診断された
12月 局所放射線療法を開始
        →嚥下障害・左不全麻痺は一時改善
2018年2月 患児が外来での治療を希望したため、
                     退院後からあおぞら診療所介入
【本人への告知】
病名告知:未
主治医からの説明:
「頭の中におできができていて、ビームで小さくする」「治る病気で、麻痺もビームでよくなる」
【既往歴】 不安障害、分離障害(9歳ごろ~)
【家族背景】
父・母・弟
主介護者:母
【医療資源】
かかりつけ医:A病院
訪問看護
【栄養】 経口摂取→2018年9月より経静脈栄養
【薬剤】
エルネオパNF1号液、デカドロン、ガスター、プリンペラン、ドルミカム、セレネース、イーケプラ、ホストイン、アセリオ、アンヒバ、プリンペラン

【訪問診療導入後経過】

(2018年)
4月 中学校に入学した
5月 頭痛が増加、左上下肢の麻痺が進行
6月 左不全麻痺進行、MRIで腫瘍の増大あり
         2回目の放射線治療開始
8月 患児から周囲へ病状の質問をすることが増えてきた
⇒家族と医療者で告知について話し合い
●本人:本当は麻痺が治らないのではないか?
●母:児へウソをついていることに罪悪感を感じている。
        父・母:患児が告知をうけとめきれず、自暴自棄になるのではと思っている。
        本人に希望をもってもらうためにも、告知はしたくない。
●周囲:年齢に比して幼く、マイナス面を意識する印象
             家族の気持ちを傾聴、尊重する
病名告知、予後の話は患児にしない

9月 誤嚥性肺炎による低酸素血症で救急搬送
          抗生剤治療、補液開始され肺炎は改善
          PICC挿入、経静脈栄養開始
10月中旬 右不全麻痺が進行、意思疎通が難しくなる
10月下旬 意識障害進行、意思の表出ができなくなる
11月上旬 酸素化低下あり、臨時往診時
                  一時改善したが、その後酸素化低下
                  死亡確認し、お看取り

【ビリーブメントケア】

 B医師と訪問
患児はおだやかな表情であった。
母は患児の生前の様子、亡くなった後に同級生が会いに来てくれたことをお話ししてくださった。患児の携帯にはがんばる、治すというメモが残っており、母が見せてくださった。喪失感ともっと何かしてあげられたのではないかという気持ちを感じていらっしゃった。

【小児への告知】

●児への告知
死の概念を理解するようになるのは7歳ごろ
児の発達に合わせた説明を行う
(あそび、平易な言葉~病名告知・予後告知)
患児の性格、家族の意思、周囲の環境を鑑みて決定する

●家族への負担
親だけで決定せず、話し合いの場を設ける
責任を分散させることで親の負担を軽減する
家族へのケアを行う

【小児の緩和ケア】

~WHOのPalliative Careの定義~
・小児の身体的、精神的なケアであり、家族へのサポートも含まれる
・診断時から始まり、治療の有無に関係なく継続する
・医療者は患児の身体的、精神的、社会的ストレスを検討し軽減する
・患児・家族に対して多角的なアプローチでケアを行い、利用可能な地域資源を利用する
・緩和ケアは専門施設、地域の医療機関だけでなく、家庭でも行うことができる

~小児の緩和ケアにおける医療者の義務~
・患児に関心をもつこと
・見捨てないこと
多くの家族は患児の生前はケアを受けられていると感じているが、死別後は医療者に見捨てられたと感じることもある。家族の喪失感に寄り添うことが必要である。

Jones BL et al. Pediatrics 2014

【考察】

世界的に小児への告知が進められているが、その方法・程度は児に合わせて考えるべきである。本症例では、11歳と思春期であったこと、不安が強い児であったことを考慮して病名・予後告知は行わないこととなった。医師が決める時代から患者が決める時代へと変わりつつあるが、患者と家族だけが責任を担うことにはなるべきではない。患児・家族と関係を気付き、生前から生後まで気持ちに寄り添う医療が求められている。

【感想】

これまで入院中の患者さんを診ることが多かったため、退院後の自宅での生活をみることで初めて気づかされたことが多くありました。患者さんの自宅に行って話をきくことで、患者さんがどのように考えていたのか、どのようなことに困っているのかを知ることができ、自分がこれまでいかに知らなかったか、知ろうとしていなかったかを実感しました。就学の問題、成人になった際の小児科との関係性、自宅でケアをする家族の負担、患児と家族の緩和ケアなどを考えることができました。来年からは小児科医を目指して働くこととなりますが、この経験を生かしてさらに学んでいきたいと思います。
先生方、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、短い間でしたが、ありがとうございました。

【参考文献】

・WHO HP : WHO definition of palliative care
・The duty of the physician to care for the family in pediatric palliative care 2014 Pediatrics Feb;133:S8-15
・小児緩和ケアの現状と展望 日本ホスピス・緩和ケア研修振興財団