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Most Impressive Case Report 2020.08 研修医A

Most Impressive Case Report 2020.08 研修医A

【症例】5歳5ヶ月 女児
【診断】急性骨髄性白血病(M0) 移植後再再発
【現病歴】
3歳  5ヶ月 感冒症状を繰り返していた
3歳  6ヶ月 微熱、倦怠感、顔色不良を認め上記診断
寛解導入不能のため高リスクとして移植適応
3歳11ヶ月 臍帯血移植 臓器合併症なく退院
4歳  6ヶ月 再発、化学療法で寛解に至らず
4歳10ヶ月 アスペルギルス肺炎を発症
4歳11ヶ月 母親をドナーとした末梢血幹細胞移植
5歳  1ヶ月 末梢での芽球が消失
5歳  4ヶ月 末梢血で芽球を確認、免疫抑制剤中止
5歳  5ヶ月 末梢血で芽球88%
皮膚GVHD増悪のため免疫抑制剤再開
ハプロ移植についてセカンドオピニオンを受けるも
アスペルギルス肺炎が治癒していないため適応なし
8月9日 訪問診療を開始
【出生歴】在胎40週2日 2782g 仮死なし
【既往歴】1歳半 無害性心雑音
【アレルギー】薬物:なし 食物:キウイで蕁麻疹
【予防接種】2回の移植後は何も打っていない
【家族背景】父・母 ・姉・妹
【生活歴】幼稚園に在籍
【医療資源】
かかりつけ医:A病院
訪問看護ステーション:B
【栄養】経口摂取 制限なし
【医療デバイス】CVカテーテル 右外頸静脈
【薬剤】
タクロリムス、ボリコナゾール、ST合剤、
ミコフェノール酸モフェチル

~考察~

【急性骨髄性白血病(AML)について】
・小児の急性白血病の約25%、年間約180人
・正常造血の抑制により、貧血による全身倦怠感・動悸・息切れ、血小板減少による出血症状、正常白血球減少による感染症状などが出現する。
・小児AML新規診断例の治療成績は、無イベント生存率が約60%、全生存率が約70%
・再発・難治例の全生存率は40%に満たない

【白血病の子どもの在宅ケア】
1.輸血
週に2-3回の血小板輸血、週に1回程度の濃厚赤血球が必要となる。輸血はCVラインから行い、そのために抹消ラインを確保することはしない。医師が開始し、開始後30分ほどは患者宅にとどまり副作用の出現に注意する。終了後に訪問看護師がラインのフラッシュ、血圧測定、状態観察を行う。

2.感染症のコントロール
白血病の末期には通常の白血球がほとんどなくなり免疫能は著しく低下する。可能な限り入浴し清潔を維持し、CVカテーテルの管理に十分配慮すれば在宅で生活できる。一方で外出の際には十分な配慮が必要。

3.長い治療によるストレス
白血病の治療は過酷で長期にわたり、その長い治療に耐えてきた患者は医療的介入に強い恐怖心やストレス反応を示すことがある。受容・傾聴の姿勢を揺るがすことなくケアを行い、忍耐強く関わり、患者が受け入れることのできる対応を模索し、受け入れてくれる対応を手がかりにして介入を進めていく必要がある。

【本症例について】

AMLの末期で予後2,3ヶ月と考えられる。訪問診療開始時ADLは良好で自覚症状は掻痒感のみであった。骨髄抑制のため頻回の輸血を必要とし、発熱時には抗菌薬投与を行った。往診中、患児が寝ている間に両親の思いを聞くことができた。できるだけ家で過ごしたいという思いは一致しているようであったが、父は家にいることが逆に本人や母の負担となっていないかを心配しており、退院してすぐに発熱した際にはとても焦ったという発言もあった。母はもともと看護師であったこともあり覚悟ができているように見えたが、今後患児の体調が悪化し変わっていく姿を姉妹に見せることへの不安や、2年間の治療で患児にかかりっきりになったことでママ友と疎遠になってしまったことなど、より先の生活に不安を抱いているようであった。
訪問看護に同行した際には姉妹で仲良く遊んでいる様子を見ることができ、幼稚園のイベントも楽しんだようだった。姉妹には予後のことは伝えられていないが、知りたいと思ったタイミングでそれぞれの年齢や理解度に合わせて患児の病状や現状を説明し、決して疎外感を与えないよう、また不安を増大させないよう配慮する必要がある。
子ども、親、家族らしくいることを支えるために、関連する職種が連携し、葛藤するご家族に寄り添うことが大切である。

【研修の感想】

病棟で研修をしていると「入院」「退院」の二つの視点でしか考えることがありませんでしたが、実際に往診に伺ってみると退院後の患者さんとご家族の生活は実に様々であることがわかりました。退院後の生活は病院と同じようにはいかないとわかっていても、自宅での日常生活の風景や乗り越えなければならない問題点なども患者さんごとに異なっていたのが印象的でした。たくさんのお宅を訪問するうちに長期的に医療を必要とする患者さんやご家族とのコミュニケーションの取り方についても学ぶことができました。今後このような患者さんを診療する際には多様な社会的背景にも気を配り、適切な医療資源を提供できるようにしたいです。

また今回は新型コロナウイルスの影響で病院での面会ができなくなったり発熱時に受診できる医療機関が限られていたりしたことで、在宅医療の重要性がより高まってきていると感じました。大変な状況の中で貴重な経験をさせていただいた先生方、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、4週間ありがとうございました。

【主な参考文献】

・前田浩利編、実践!!小児在宅医療ナビ、2013年
・前田浩利、小児がんのケア、在宅新療0-100, 3(6):570-574, 2018