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Most Impressive Case Report 2021.09 研修医A

Most Impressive Case Report 2021.09 研修医A

【症例】6ヶ月 女児
【診断】水頭無脳症
【現病歴】
妊健未受診の母親から在胎38週相当2996gで出生し、水頭無脳症(後頭葉の一部と小脳、脳幹はあるが視神経、視床、下垂体は認めない)と診断された。新生児期からけいれん、筋緊張亢進、嘔吐を認めた。外科的治療の適応はないと判断され、水頭症と小脳・脳幹の圧迫が進行したことから生命予後は短いと予想された。在宅での看取りを希望し3ヶ月時に退院し、2021年6月15日訪問診療開始した。安定した状態が維持できるようであればA病院定期受診を検討する方針。
【出生歴】在胎38週相当 (Neu Ballad法), 2996g
【既往歴】中枢性尿崩症、甲状腺機能低下症
【家族歴】父方の親戚に水頭無脳症で6ヶ月で死亡した児あり
【生活歴】アパートの1階に両親と3人暮らし
【家族背景】両親ともに20歳の外国人留学生
【医療資源】
かかりつけ医:A病院小児科
看護ST:B、C、D
【栄養】
1回にミルク100ml+白湯70mlを1日6回(0, 7, 10, 14, 18, 21時)
120ml/kg/day
【医療デバイス】在宅酸素、SpO2モニター、吸引器、経鼻胃管
【薬剤】
(定期)チラーヂンS散、フェノバール散、イソバイドシロップ、ミヤBM細粒、デスモプレシンスプレー、カロナール細粒、コートリル
(頓用)ダイアップ、アンヒバ、トリクロリール

【訪問診療導入後経過】

訪問診療導入後、水頭症の進行はあるものの著明なバイタルの悪化はなく経過しており、栄養摂取もでき体重も増加している。 月2回程度発熱がみられ、その度アジスロマイシン内服で改善している。フォーカスははっきりしないが、マイクロアスピレーションなどが疑われる。 もともと考えられていたより長期生存が見込めると考えられ、看取りを前提としたケアから育児としてのケアに切り替えていくことが考慮される。 9月7日に退院後初めて病院受診したが、今後の治療方針等について両親と意思の疎通ができていない。

~考察~

【 水頭無脳症について】
・水頭症は、過剰な量の髄液が集積した状態であり、脳室拡大や頭蓋内圧亢進が生じる。
・水頭無脳症は水頭症性無脳症とも呼ばれ、両側の大脳半球がほぼ完全に欠損するが、小脳と脳幹は正常で、髄膜や頭蓋骨も正常である。
・嘔吐、けいれん発作や知的障害がみられる。
・治療は支持療法が基本であるが、頭囲拡大に対してシャント術が行われることもある。

【現在の問題点】
・両親のコンプライアンスの問題
両親は外国人留学生であり、日本語の理解にやや難がある。電話で両親と意思疎通を図ることは困難。病院受診時も医師の説明を理解できなかったと。今の気持ちなどを両親に尋ねても、大丈夫大丈夫と言い、なかなか本音を話そうとしない。
・金銭面での問題
現在の家族の収入源は、父親のアルバイトと実家からの仕送りという状況である。生活保護は永住権がないため申請できない。
・家庭環境の問題
両親は就学ビザで来日しており、母親が育児のために学校を辞めると日本にいられなくなってしまう。10月からは母親の学校が始まり、通所施設の利用などについて検討が必要。

【本症例における在宅医療の役割】
・親子と他の医療者、生活支援をつなぐ
両親ともに日本語の理解に難があり、日本語が得意な友人もいないとのこと。両親を介した他の医療者との意思疎通は難しいため、ノートなどを活用して他の医療者と在宅医で連携し、治療に当たっている。また先手先手でサポートをしていかないと孤立してしまう可能性があるため、どのような支援が受けられるかを提案することなども求められる。
・両親とともに治療方針を決めていく
当初は看取りが前提での在宅医療導入となっていたが、もともと考えられていたよりも長期の生存が見込めると考えられ、育児も含めたケアに切り替えていく必要がある。シャント手術についても両親の理解が十分でなく、病院受診の機会も少ないため、両親と接する機会の多い在宅医が今後の治療方針等についての意向を確認し、決定する手助けをしていく必要がある。

【研修の感想】

あおぞら診療所での研修を通して、病院での医療では患者のごく限られた一面を見ているにすぎない、ということを強く実感させられました。接した患者さんの多くが言葉を発すことも、自由に歩くこともできない児でしたが、入院中と比べて表情が和らいだり、鎮痛剤の量が減ったりするというお話を聞き、家庭の持つ力についても学ぶことができました。今後病院で医療に携わる際にも、患者の背景にある家庭環境や普段の暮らし方をよく理解し、それに合った治療をしていくことで、より良い結果につながるのだろうとはっきり感じました。同行させていただいた先生や事務の方々はじめ、診療所の皆様には大変お世話になりました。1か月間ありがとうございました。

【主な参考文献】

医療的ケア児・者 在宅医療マニュアル(前田浩利、戸谷剛、石渡久子 著)