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Most Impressive Case Report 2022.02 研修医B​

Most Impressive Case Report 2022.02 研修医B

【症例】11歳 男性
【診断】神経芽腫末期、多発骨転移
【現病歴】
2016年06月に股関節痛で発症し、A病院で多発骨転移・骨髄浸潤と診断。化学療法5コース後に大量化学療法・腫瘍摘出術・腹部放射線照射で寛解。
2018年08月に下肢痛で再発。化学療法6コース後に大量化学療法・局所放射線照射を実施、更に化学療法5コースで再寛解。
2020年04月に下肢痛で再々発、多発骨転移と骨髄浸潤と判定。化学療法に抵抗性で腫瘍の縮小は望めず、緩和的化学療法を継続。
2021年04月よりイリノテカンとテモゾロミドによる治療を行ったが、骨髄抑制からの回復が難しいとのこと。
2021年06月からは化学療法期間を短縮、オンコビンを追加、骨髄抑制以外の有害事象なく終了し、全身疼痛も緩和。現在、赤血球は1-2週間に2単位、血小板は3-4日に10単位程度で輸血を要し、外来で輸血を実施していたが、自宅輸血希望あり、今後の病勢の進行も鑑み、2021年07月より訪問診療を導入。
【出生歴】在胎37週5日 3036g
【既往歴】本疾患以外特になし
【生活歴】アレルギー:もも、キウイ
【家族背景】父・母・姉2人(異父)
【医療資源】
かかりつけ:A病院
ST:訪問看護ステーションB
【栄養】家では一日3回普通の食事
【デバイス】
在宅酸素、SpO2モニター、CVポート、PCAポンプ
【薬剤】
オゼックス細粒 280mg、ミヤBM細粒 1.5g
ウルソデオキシコール 300mg、ダイフェン配合錠
デカドロン錠 4mg、コートリル錠 10mg、
カロナール錠 200mg、ナイキサン錠 100mg

【訪問診療導入後経過】

訪問診療導入後は治療の為、入院生活を継続している。一時退院時の臨床状況に応じて、輸血やノイトロジン投与等を行われている。然し、腫瘍病勢悪化しGD2治療中止、化学療法と放射線治療でコントロールしていく方針。
現在、疼痛コントロールは概ね良好。今後はPCA併用等で自宅で過ごす比率が上がっていくと想定、引続き自宅での支援を支えていく方針。

【神経芽腫について】

子供の利益実現を最も優先すべき
・1989年国連「児童の権利に関する条約」:
「子供は権利をもった主体」「児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」だが、子供単独で同意権者となりうる明示なし。
・1998年WMA「オタワ宣言」:
「成熟した子供は医師の判断によりヘルスケアに関する自己決定を行う権利を有する」。
・本邦においては、子供が自分自身の医療行為に対して、同意する権限に関して、法的な規定は明記されていない。
・過剰な治療を希望する場合、刑法的に最終的決定権者は実施する医師にあり、親は最終決定権者よりも同意権者。
・小児医療におけるICは、子供と親と医療者のより良い関係作りを発展させるためのプロセスとして実践していく。

【本症例における問題点】

知る権利 発症以来、ご本人の状態への配慮等が原因で、主治医とご両親から病名を含め病気のことについて正式的に教えることがなく、曖昧な言い方で病気のことを語っている。ご本人の年齢及び成熟度から推測すると、病気のことに関してはある程度の認識を持っている。病勢進行に伴い告知は避けられないと思われるが、タイミングはなかなか捉えない。
意思決定 以前から通院治療よりも自宅で過ごしたい希望をご本人が示していたが、主治医とご両親は積極的に治療を行おうとし、ご本人の意向を優先しなかった。

【本症例を通して】

この症例を通して、「知る権利があるこそ、知った方が間違いなく良い」という考えを見直しました。病気を乗り越える過程において、子供と親が良い関係を保つことも重要であり、その関係を傷つけないよう病気に関する情報はどのぐらいそしてどう共有すべきか、答えはそれぞれであります。また、年齢及び成熟度にもよるが、自ら意思を示せる子供に対しては、できる限りその意思を尊重し最優先すべきだと思います。子供が自己決定能力を持たないと思われるため、医療行為を行う時に誰の意思に従うべきかは小児医療における難しい課題の一つであります。

【研修の感想】

地域研修を介して、初めて在宅医療の分野に触れ、大学病院で行われているのと異なる形式の医療を経験させていただきました。往診の限られた時間で患者さんの臨床経過からご家族の近況まで詳細に把握する能力に加え、予想外のエピソードへ適切に対応する能力も求められている先生方から、色々勉強させていただきました。また、医学的な管理だけではなく、患者さんとその家族に対してはできる限り支えるのも非常に大事であることも勉強させていただきました。往診ごとに違うことを学ぶことができ、私にとって貴重な経験になりました。
先生方と事務さんをはじめ、診療所の皆様に大変お世話になりました。1か月間ありがとうございました。

【主な参考文献】

・日本小児外科学会
・実践!!小児在宅医療ナビ(前田 浩利 編)