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Most Impressive Case Report 2016.01 研修医A

Most Impressive Case Report 2016.01 研修医A

【患者さん】 90歳 女性

【診断】 #1 転移性肝癌 #2 高血圧 #3 高脂血症 #4 骨粗鬆症 #5 せん妄

【往診までの経過】
高血圧、高脂血症、骨粗鬆症がBaseにあった方。2010年、夫と地方から長女のいる市内のマンション(部屋は別)へ移住してきた。2015年1月より体重減少があり、採血検査でも貧血の指摘がたびたびあった。8月には腹部違和感も認めるようになり、12月に食思不振の精査目的で、腹部CT検査をおこなった。肝内に腫瘤、また少量腹水に加え腹膜播種も認めた。年齢も考慮し積極的加療はせず、訪問診療での緩和ケアの方針となった。本人へは告知は行われなかった。

【生活歴】
<ADL>ゆっくり歩行可
<排泄>自立
<食事>栄養補助食品がメインお粥などは少量

【日常生活自立度】 寝たきり度 B2 認知症の状況 Ⅲa

【家族背景】
夫と2人暮らし
長女 多忙で協力困難
次女 同マンション在住 キーパーソン

【医療デバイス】
在宅酸素、SpO2モニター、PCA皮下ルート

【医療資源】
訪問診療、訪問看護、介護保険、ケアマネージャー

【退院時処方】
リバロ、ファモチジン、アムロジピン、ミカルディス、ボナロン、マグミット、ノバミン、オキシコンチン、オキノーム

【往診導入後経過】

・12/18 A病院にて癌性疼痛に対して、オキシコンチン 10 ㎎/day オキノーム 1回2.5㎎屯用の処方がされていた。
・12/28 当院往診初診。食思不振なども考慮し、デカドロン 1 ㎎/day の点滴投与を行った。この際は疼痛・呼吸困難感はコントロールされてる状態であった「天井に綺麗なお花が見える」など穏やかであるが、せん妄を認め、リスパダール 1 ㎎/ml 屯用とした。
・1/2  胸部不快感訴え、食思不振の悪化を認め、疼痛も悪化し、レスキューの頻度が上がった。幻視も認めるも、リスパダールは拒否するようになった。
・1/4  オキファストPCA皮下持続開始とした。
・1/8  せん妄に対し、セレネース 2.5 ㎎/day をPCA混注で行うこととした。
・1/12  在宅酸素療法導入した。
・1/13  1時より下顎呼吸となり、3時3分死亡確認となった。

【スケジュール】

12/28 初診 ~ 1/13
Total 17日間
定期往診 7 回 臨時往診 6 回
電話 13 回  訪問看護  2 回

【癌末の方を在宅で看取る際の問題点】

  • 1)告知

    本人に行わず、家族のみのケースが多くみられる。告知を行わないことで、本人の死の概念の捉え方、特にキューブラー・ロス(否認・隔離 ⇒  怒り ⇒ 取引 ⇒ 抑うつ ⇒ 受容)の流れに乗れないことがある。
    不安が前面に出たり、治療への不信感(消失しない症状などの疼痛管理)により、理想の緩和医療ができない。
    根本としては本人による意思決定ができず、理想の終末期の過ごし方と異なることがある。

    ☞ キーパーソンによる本人の望むであろう意向を聴取し、告知の有無・緩和医療の形態を決める。IC(前医の勤務医も含め)が何より一番大切である。

     2)医療従事者と家族との関係

    医療ケア側の人間と、本人・家族との間に信頼関係を築くのはもちろんのことであり、1)の告知や、意思決定、さらには死の準備教育が大切である。

    ☞「命とは限りあるものである」という事を受け入れることで訪れる平穏を家族にもたらすのが理想である。
    下顎呼吸などの段階を経る症状や、ある程度の予後予測などをあらかじめ伝えておくことが大切である。

     3)家族の介護力

    核家族化している現在では、孤立し、介護者不在の問題がある。また家族が在宅で看取りたいと願っても、老老介護の問題がある。
    家庭における療養環境が整わない問題もある。金銭面での負担が大きくなってしまう。

    ☞介護者の負担が大きくなってしまうため、レスパレイトなど、まずはケアマネージャーより本人・家族へ医療資源の選択肢を提示する。

     4)医療従事者のQWL

    Quality of Working Lifeは在宅医療に関わらず大切である。今回は初診時をスタートとすると、17日間、実際自宅へ伺った回数は15回、電話13回であった。

    ☞多くの方を診ていくには、チーム医療が欠かせない。根本には皆より良い医療を届けたいと考えているが、チーム内で意識の統一を図っていくためにも、お互いの価値観の共有・認識・譲歩などは大切である。

【感想】

生来健康でカラオケと孫が趣味の78歳男性。食思不振などの訴えがあり、長年慕っていた近医の開業医に診てもらうも経過観察となった。半年後の冬には腰部違和感も訴え、再受診するも経過観察であったため、見兼ねて妻がB病院へ連れて行き、CTが行われ、腎癌StageⅣ 骨転移の診断となった。本人には告知はせず、妻・娘が代わる代わる自宅で介護し、また娘の夫が医師であったため、連日点滴などを行った。本人は我慢強い性格で、無口な方であったが、症状がとれない状況から病名や説明が欲しそうであった。懸命に付き添うも、春、自宅で息を引き取った。

自宅で看取ることは、想像以上に体力・精神力がいるものだなと思いました。昼夜問わず、訴えがあれば傾聴し、自分なりに考え対処する。1ヶ月診させていただいた中で、やはり家族の疲れをどこかで感じていました。ただ自宅で看取られた方を診ていると、その部屋には、その後も亡くなった方がいるように感じられるような気がして、個人的にはいいなと思っています。

市中病院と訪問診療の関係が大切と感じました。壁は多いですが、区市町村などでカルテなどのデータベースの共有などが出来れば、一人ひとりに目が行き届き、スムーズでオーダーメイドな診療が出来るだろう。