Most Impressive Case Report 2016.04 研修医A
Most Impressive Case Report 2016.04 研修医A
【症例】27歳男性
【診断】#重症新生児仮死 #尿路上皮癌
【経過概要】
在胎41週3805gで出生。重症新生児仮死でA病院NICU入院。その後は自宅で母の介護を受け生活していた。15歳で経管栄養開始、16歳で胃瘻造設、噴門形成術施行。
2006年17歳であおぞら診療所新松戸の訪問診療開始。脳性麻痺・痙縮と骨格変形が強く、エアウェイによる気道確保と持続吸引・ボトックス注射を継続し安定して過ごしていた。
2008年8月に初めて血尿認め、2012年に再度認めるようになり尿路結石疑いとして経過観察されていた。2013年5月にB病院にてCT施行し結石等の所見なく、2013年8月尿細胞診施行、ClassⅢb認め腫瘍疑われたが、造影CTなど検査に伴うリスクがあること、悪性腫瘍であったとしても脊椎の変形強く外科的介入も困難である可能性が高いことをご家族にご説明・ご相談の上、積極的な検査・治療は行わず、疼痛・尿閉など自覚症状出現した場合のみ治療介入する方針となった。
その後も血尿続き、2015年8月血尿増え、凝血塊認めるようになり、造影CT施行にて膀胱尿道移行部に尿道腫瘍認めた。2015年12月に尿閉認め尿道バルーン挿入にて対応、膀胱ろう造設の方針となった。
【家族背景】
父:同居。幼少期からご本人とはあまり関わってこなかった。
母:家で内職の和裁の仕事をしながらほぼ一人でご本人をずっと見てきた。腫瘍があることが判明した後も、積極的な治療は望まず、症状緩和を望んでいた。ご本人終末期にあることについてよく理解され、受け入れられているが、寂しいと感じられていた。
弟:同居。働いている。
【医療デバイス】
胃瘻(2005年?) 膀胱ろう(2016年3月?)
在宅酸素虜法(2016年4月?)
【医療資源】
訪問診療(月2回)、訪問看護(月2回)、訪問介護
を基本として適宜臨時で介入。
【Problem List】
#1.脳性麻痺(定期的なボトックス注射)
#2. 尿道悪性腫瘍最末期
【最末期の経過】
尿道膀胱移行部に尿道癌あり尿閉認めたため3月9日にA病院にて膀胱ろう造設、3月21日に退院後羸痩・浮腫増悪し、癌最末期と考えられた。4月に入ってから状態悪化を認め、連日往診、ご家族にもICの上自宅でのお看取りの方針となった。
発熱も連日続いたためステロイド・抗菌薬投与施行したが改善認めず。4月7日よりHOT導入。腫瘍熱の可能性考慮しナイキサン開始。頻脈続き疼痛によるものと判断して2月よりフェントステープで対応していたが増悪認めたために4月9日よりPCA開始(モルヒネ・ドルミカム)、連日増量。4月11日頃より下顎呼吸出現し、4月16日自宅にてご家族に見守られる中永眠された。ご冥福をお祈り申し上げます。
【考察】
重症心身障害児・者の終末期の問題について
これまで短命と思われてきた重症心身障碍児・者の高齢化にともない様々な問題が起こるようになっている。
本症例では27歳と比較的若年ではあったが、悪性腫瘍の罹患による死亡であった。重症心身障害児・者の腫瘍による死亡に関しては本邦での統計化されたデータは見つけられなかったが、2007年の倉田による10症例の報告では、ほとんどの例が発見時に全身転移している状態で発症後1年未満に死亡し、治療においてもご本人・ご家族の治療拒否などで十分に行うことができない例が多かったとされている。
重症児の成育医療に関しては小児科医が関わることが一般的とされてきたが、高齢化に伴い生活習慣病などの内科的な疾患のコントロール、癌の早期発見や治療、また終末期の緩和ケアなど、個々の症例で成人医療に携わる医師との連携は必須になるだろう。ただし今後更にデバイスの有無や基礎疾患など重症心身障害児の多様化が予測されること、依然サポートが十分でない地域であっても施設ではなく在宅で過ごさざるをえない子供達が増えてくることを考慮すると、検診や治療のガイドライン作成にあたっては慎重な配慮が必要と考える。本症例では10年にわたりあおぞら診療所の医師・スタッフがご本人・ご家族と関わり続け、その中でのがん告知・自然な経過でみるというご家族の選択があり、自宅でのお看取りとなった。ある程度の指針や症例データの蓄積は必要であると考えるが、特にターミナルにおいてはご本人・ご家族のこれまでの生活・考え方に多職種で寄り添い、共に悩み支えるプロセス自体も重要なのだろう。
<参考文献>
倉田清子 高齢期を迎える重症心身障害児の諸問題 脳と発達 2007;39;121-125
前田浩利編 地域で支える みんなで支える 実践!!小児在宅医療ナビ 南山堂、2013年。
【感想】
在宅医療を受けている方の中には、独居の方や成人・小児共に主介護者が必ずしも十分な介護をできる状態でない方もたくさんいて、それでも地域で生活しているということ、また患者さんの状態に関わらずご家族の生活も続いていくということがとても印象に残りました。
今回の研修で、個々のご家族の地域での生活を思いやった上で、病院と診療所、また地域に帰ってから支える各職種の連携がしっかりできた場合、「スーパーお母さん」でなくても、支える家族の手が十分でないご家庭であっても、地域での生活を継続していくことが可能になるのだと実感することができました。ただ同時に、それが関わる人達の情熱で支えられている面も大きいだろうこと、今後さらに在宅でのお看取りや在宅で過ごす子供達が全国で増えていくことを考えると、関わる全職種が無理なく仕事をし続けられるシステムや人材確保、国の制度の拡充も必要なのだろうと感じました。