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Most Impressive Case Report 2016.05 研修医A

Most Impressive Case Report 2016.05 研修医A

【症例】63歳女性

【診断大脳皮質基底核変性症

【経過概要】
2004年3月初旬頃から動悸・不安感・抑うつ症状が出現しA病院受診。B病院精神科を紹介。
2005年頃から手のしびれ感が出現。
2006年頃から認知症状が出現しCクリニックを紹介。
2006年2月に字が書けなくなりD病院受診し認知機能の低下を指摘された。
2007年6月にD病院でアルツハイマー型認知症が疑われた。
2010年に大脳皮質基底核変性症と診断され、以降緩徐に記名力低下・見当識障害が進行した。
2012年3月歩行も困難となったため当院往診導入。
6月頃より口が開きにくく摂食困難となり胃瘻造設。以降往診で経過観察し、次第に意思疎通困難・寝たきりとなった。

【家族背景】
本人:元往診看護師
夫:元新聞記者で献身的に介護されている。

【医療デバイス】
胃瘻 (2010年〜)

【医療資源】
訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ

【処方薬剤】
fluvoxamine (デプロメール®(25)1T1x眠前) SSRI
milnacipran (トレドミン®(25)1T1x夕) SNRI
sertraline (ジェイゾロフト®(25)2T1x眠前) SSRI
dimethicone (ガスコン®(80)3T3x毎食後)
ラコールNF配合経腸用液® 400mL 200mLx2
ascorbic acid (シナール®3g3x毎食後)
NaCl 4g2x朝夕
glycerin (グリセリン浣腸50%60mL) 便秘時1回1個

【Problem List】
#1. 大脳皮質基底核変性症
#2. 症候性てんかん
#3. 胃瘻
#4. 覚醒度低下

【2016/05/18の往診時の様子】

身体所見
GCS E1V1M4以下, SpO2 99% (room air), HR 72 bpm, BP 118/78 mmHg, 呼吸音清、腹部平坦軟、圧痛なし、腸蠕動音正常、四肢浮腫なし、末梢冷感軽度あり、下肢にミオクローヌスあり

覚醒度低下傾向であり前回往診時にデプロメールR中止とされていた。今回往診時は主介護者である夫の実感として「爆睡している」「夜中に声が出る」など覚醒度が改善傾向であると考えられた。ただし覚醒度の明確な指標はなく、今後バイタルサインや身体所見に変化がないか経過観察することが必要と考えられた

【考察】

在宅医療における覚醒度評価の指標としてBISモニター使用の可能性について

大脳皮質基底核変性症 (CBD) は進行性核上性麻痺 (PSP) と共に4 repeat tauが蓄積することによる生じる変性疾患である*1。中年期以降に発症し緩徐に進行し、前頭・頭頂葉症状と基底核症状に左右差がある点が特徴的である。本症例は51歳より抑うつ症状で発症し、12年程度の経過で寝たきりとなっている症例であった。

本症例の問題点として覚醒度が低下傾向であることが挙げられた。覚醒度は主介護者である夫の実感に依存しており、臨床的指標に乏しかった。睡眠の不足や興奮持続である程度のバイタルサインの変化が生じることが予測されたが、筋強剛が強く意思疎通困難となっており覚醒度は評価困難であった。覚醒度評価法のひとつとしてBIS (Bispectral Index) モニターの使用を考えた。BISモニターは現在麻酔科領域で鎮静レベルの指標となる簡易脳波モニターとして使用されているが、筋萎縮性側索硬化症における睡眠パターン検査指標として用いるなどの症例報告が散見される*2,3。本症例のような基底核変性疾患において筋強剛などのParkinsonismが高度となった症例において、BISモニターを使用し覚醒度が評価可能であるか検討の余地がある。

本症例のように意思疎通困難であり覚醒と睡眠の区別が困難な場合、介護者の介護ストレスは増大することが予測され、もし被介護者の覚醒と睡眠が明瞭であれば介護者の「やりがい」も生まれやすいのではないかと考えられた。

1) J Neurol Neurosurg Psychiary 2012; 83: 405-10
2) 日職災医誌 2004; 52: 35-363
3) 川崎医療福祉学会誌 2008; 18: 271-275

【感想】

高齢化・医療デバイスの充実化・NICU問題などに伴い、日本において在宅医療の充実が必要となっている。今回在宅医療の現場において、必要とされるエビデンスが不足していることを実感した。例えば、がん最末期における疼痛コントロールでモルヒネ使用量に明確なエビデンスがないことや、尿道カテーテルを毎回往診時に入れ替えている症例がいる一方膀胱瘻を留置されている患者がいるなどが挙げられた。エビデンスが不足している領域での在宅医療については個々の症例の病態から判断するだけではなく、患者さん本人・家族・介護者・医療資源の要望すべてを合わせて方針決定する必要があり、標準化された医療が求められる現代では発展の余地が十分ある一方、医療資源である往診スタッフ全員の経験と裁量が十分生かせる分野であると思われた。今後社会的需要が増していく中で制度面でのサポートが必須であるだけではなく、医療に関わる者全員の在宅医療への参加も重要であると考えられた。