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Most Impressive Case Report 2016.05 研修医B

Most Impressive Case Report 2016.05 研修医B

【本症例を選んだ理由】
・今回、最も印象に残った症例として発表させていただくのは、ご自宅で胃瘻チューブが抜けてしまった症例である。
・今回、ご自宅を訪問して、初日に非常に驚いたのが、ご自宅に高度な医療機器がたくさんあり、それを使いこなしているご家族の姿だった。
・24時間、高度な医療機器が必要な患児が自宅で過ごすには、訪問看護ステーション、在宅医療機関と緊急受診先病院との連携が重要になる。
そういう支援をうまく行え、連携の重要さを痛感したケースとして、本症例が印象に残ったので、今回発表させていただくことにした。

【胃瘻事故抜去について】
・胃瘻チューブが抜けた場合、2~3時間で瘻孔は縮小・閉鎖し、24時間で完全に閉鎖する

【胃瘻事故抜去の原因】
・患者自身がカテーテルを引っ張って抜去してしまう(自己抜去)
・バルーン破裂
・バルーンの固定水が抜けてしまって虚脱する
・体位変換や移動時、入浴時にチューブが引っ張られる
・(バンパー型の場合)長期の使用による内部バンパーの劣化
※ボタン型ではチューブ型より事故抜去の発生が少ないとされる

【胃瘻事故・自己抜去予防策】
・バルーン型では、固定水の定期的な確認と入れ替え(一般的には週1回、1週間に0.25ml1か月に1ml程度減少する
・定期的なカテーテル交換(一般的には12月に1

【胃瘻事故・自己抜去対策】
①緊急時に備えて夜間休日でも連絡をとれる体制
第一連絡先:訪問看護ステーション 第二連絡先:在宅医 第三連絡先:緊急受診の際のかかりつけ病院
②第一発見者は、栄養注入はせず(している場合にはすぐに止め)、抜けたカテーテルをバルーン上方で切断し、ゼリーを塗布し愛護的に瘻孔へ挿入する。入らない場合はサイズの小さいものを挿入する。それでも入らない場合には、瘻孔がふさがらないように吸引チューブなど細いチューブを挿入しておく。
③第一発見者は家族や介護者であることが多いため、事故抜去が起きたらどうするかのマニュアルを常備しておく。

【アセスメント】
・緊急時に備えて連絡をとれる体制ができており、訪問看護ステーション、あおぞら診療所新松戸、緊急受診の際のかかりつけ病院とスムーズに連携をとることができた
・抜去直後に吸引チューブを挿入し、胃瘻閉鎖を防ぐことができた
・固定水の定期的な確認がされていなかった
・前回、胃瘻交換から2カ月以上たっていた
・家族の手元にマニュアルはなく、家族だけの時に事故抜去が起きていたら対応が遅れていたかもしれない

【現病歴】

【症例】
5歳4か月 女児 18トリソミー、VSD(女子医大分類3型、V型)、先天性鼻道狭窄、扁平喉頭、舌根沈下、胃食道逆流症(胃瘻)、合趾症(両足第2・3趾)、難聴疑い

【家族構成】
父(40代)、母(30代)、弟

【現病歴】
2011年1月37週5日骨盤位のため帝王切開分娩1536g42cm。出生直後より多呼吸、無呼吸が認められ、その後の精査にて18トリソミー、VSD(女子医大分類3型、V型)、先天性鼻道狭窄、扁平喉頭、舌根沈下、合趾症、難聴疑いと診断された。
日齢192(2011年7月)で自宅に退院となった(退院時4828g 55.5cm)

子宮内胎児発育不全があり、胎児エコーにて18トリソミーが疑われた。またMRIでも揺り椅子状の踵や小脳虫部低形成が認められ、出生前に両親に話をされていた生後、外見からやはり18トリソミーが強く疑われ、両親からの同意の上、染色体検査がされた。G-Banding、FISH法にて47(XX、+18)、18トリソミーと診断された

2011年7月19日より当院で診療開始。
2013年9月25日~12月 重症肺炎にてA病院入院。
2014年2月12日~3月2日 右下肺炎でA病院入院加療
2014年5月18日~24日 アデノウイルス感染により入院加療。
2014年9月27日~10月6日 RS細気管支炎にてA病院入院
2015年4月17日~5月1日 両側肺炎にてA病院入院加療
肺炎の原因は誤嚥性の可能性が高く、また4月15日に施行した上部消化管造影にてⅡ度の胃食道逆流を認めた。また経鼻胃管が片側のみしか挿入できないため、胃瘻造設の方針となった。
2015年11月2日~1月日 RSウイルス肺炎にてA病院入院
2016年1月14日、入院の上、B病院にて腹腔鏡下胃瘻造設術施行(噴門形成術は施行せず)。術後経過良好であり、1月23日に退院となった。
緊急時受診先については、今後はB病院かC病院を希望。調整中であった。

B病院では、入院時に付き添いがいらなかったこと等から、緊急時の受診先を変更したいとの要望があった。
患児の医療連携システムが一時的に不完全な状態になっており、早急に緊急受診先を決める必要があった
C病院を受診(初診)の予定となっていたが、呼吸状態がよくなかったため受診を延期していた

2016年2月24日 B病院にてボタン式の胃瘻に交換(2016年4月~当院にて胃瘻交換を行うこととなっていたが未実施)
2016年5月6日より39℃台までの発熱と気道症状が認められた。5月7日にCRP 5.6であったが5月8日にはCRP 19.6と上昇しており、同日よりロセフィン0.6g+サクシゾン60㎎+生食50mlの点滴を開始した。5月9日には解熱し、5月11日にはRoom AirでSpO2 95%以上を保てるようになったため、5月12日で点滴終了する予定であった。
2016年5月12日 胃瘻の固定水がなくなっており、体位変換時に胃瘻が抜けてしまった。事故抜去時、訪問看護師訪問中であったため、その場で電話指示し、8Frチューブを3本挿入してもらい、臨時往診した。D医師診察時、胃瘻入口部の攣縮が強く、ガイドワイヤー下で10Frチューブを2本挿入したものの、2本目挿入時に啼泣増大し、これ以上の挿入は不可能であった。早期の胃瘻再挿入は困難と考えられた。また気道症状も回復期であるため、当院との電話調整の上、これまで胃瘻交換をしてもらっていたB病院小児外科を緊急受診することとなった。

胃瘻を形成してから期間が短く、これまで当院での胃瘻交換は一度だけであった。
前回の胃瘻交換から1か月以上経過しており、これまで固定水の量の確認はしていなかった

【経過】

5月12日、13時にB病院を受診し、透視下にて胃瘻再挿入を行なった。造影にて先端が胃内にあることを確認し、処置終了とした。その後、昼分の注入を行い、帰宅した。
5月12日夕方、当院D医師とともに再往診したところ、顔色もよく、表情も落ち着いており、発熱等も認められなかった。CRP迅速を実施し 1.8と軽度高値にとどまっていた。今後、胃瘻の交換は1か月に1度行う方針とした。
5月13日 体調はよく、注入も問題なく行えており、抗生剤オフとした。
5月24日、C病院心臓外科受診。今後はC病院でフォローしていく方針となった。

緊急受診先が決まり、患児の医療連携システムが新たに構築された

5月27日 胃瘻周囲 発赤・腫張・浸出液はなく、呼吸器症状もなく、状態は安定している。

【研修を通じて】

・今回の研修で患児を初日に訪問した。患児だけでなく、18トリソミーのような、一般的に予後が長いと言われていない子どもたちを初日に診た
・たくさんの医療機器をご両親が使いながら、24時間子どもの様子を気にしなければいけないストレスを想像すると、この子たちや家族の幸せって何なのか?と考えさせられた
・訪問看護やリハビリで、長い時間、患児と一緒にいると、患児の笑顔やちょっとした感情の変化を感じとることができ、少しでも患児と一緒にいたいという家族の気持ちがわかった気がした
・大学病院では、病気を治すために侵襲的検査や治療を多々行う。在宅診療は、「少しでも家で安心して過ごせるための治療」を行うことが大事なのだと思った
・また、訪問看護や訪問リハビリによって、ほぼ毎日、医療者が訪問しており、患児の健康だけでなく、家族のストレスが軽減や安心につながっている
・在宅診療には、訪問看護やリハビリ、ソーシャルワーカーなどの連携が重要だと感じた