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Most Impressive Case Report 2019.01 研修医A

Most Impressive Case Report 2019.01 研修医A

【症例】 4歳、女児
【診断名】 筋無力症疑い
【現病歴】
2014年12月にA病院で2885g経膣分娩で出生した。出生時より啼泣弱く、鼻翼呼吸あり、筋緊張低下を認めたため、B病院のNICUへ転院搬送となった。夜間マスク人工呼吸が導入された。
2015年5月(4か月)に退院し当院での訪問診療が開始された。
【家族背景】 父、母、兄、母方祖母(近隣在住) 同様の神経筋疾患なし
【デバイス】 (2019/1)
・人工呼吸器:バイパップA40
 設定条件S/Tモード,IPAP/EPAP 14/7 cmH₂O
                    トリガータイプ Auto-Track(sensitive)
                    ライズタイム 5s, RR 10 /min,
                    ランプ時間 5/10min, 加温加湿 4
・排痰補助装置:コンフォートカフⅡ
・胃瘻チューブ:MIC-KEY, 14Fr, 1.5cm
【医療資源】
かかりつけ:B病院
C訪問看護ST  週に2回
D訪問看護ST  週に3回
【現在の状態】
#呼吸
1日約18時間BiPAP使用中。
明らかな誘因なくSpO₂が低下することがある。詳細は後述。
#消化管・栄養
胃瘻造設後。気道感染に伴い嘔気・注入不良あり。詳細は後述。
#神経・意識
意識清明。母との会話はスムーズで知的レベルは高い印象。
#筋力低下
筋無力症疑いに対して2018年10月よりメスチノン投与中。
下肢筋はMMT0~1で、上肢筋は日によってMMT1~3程度の変動がある状態。

【訪問診療導入後経過】

#1 筋緊張低下
出生時より筋緊張低下、筋力低下あり
2015年9月 (9か月)  誤嚥性肺炎で入院。CTで四肢体幹の筋萎縮あり
2016年11月(1歳11か月) 左大腿筋生検→診断に至らず
2017年5月 (2歳5か月)  遺伝子検査→異常なし
2018年9月 (3歳9か月)  負荷筋電図→筋無力症疑い→メスチノン開始
※メスチノン:アセチルコリン作用増強作用を持つジアミノピリミジン

#2 呼吸・消化管
2015年5月(5か月)往診開始時より、平常時に1日に複数回70%台までのSpO₂低下あり。気道感染時には酸素化不良に加え、嘔気・嘔吐と注入不良を認めるというエピソードを繰り返した。
2016年11月(1歳11か月) B病院小児外科で胃瘻・噴門形成術
→胃瘻造設後は、嘔吐のコントロールは良好となったが、気道感染時に伴う嘔気・注入不良を繰り返した
2017年12月(3歳) B病院耳鼻科で喉頭ファイバー→明らかな異常なし。
2019年1月 (4歳) 酸素化不良が増悪し一時的に50%台まで低下

→今回往診時にも同様の酸素化不良が以下のような経過で認められた。
覚醒下で元気に歌を歌っていたが、急に発語がなくなり、呼吸が停止し苦しそうな表情をうかべた。その後母の声かけと揺り動かしがあり、呼吸が再開し、元の状態に戻った。この間1分程度であり、途中10秒ほどのSpO₂低下(80%台)を認めた。なお呼吸状態以外の変化は認めなかった。

【考察】

#先天性筋無力症候群
出生時からの発症、日毎の筋力変動、おそらく重症筋無力症の特異抗体が陰性であることから先天性筋無力症候群(以下CMS)が最も疑われる。
CMSは様々な遺伝子変異による神経筋接合部伝達の障害(主にニコチン性アセチルコリン受容体の障害)の総称のため、障害部位によって治療が異なる。本症もメスチノンが著効しない場合は別の治療薬(エフェドリン、アセタゾラミドなど)を試す価値はあると考えられる。

Andrew G.et al. Lancet Neurol. 2015

#酸素化不良(非感染時)
本症の呼吸に関わる病態として以下の2つがある。
・胸郭の動きが悪く、呼吸が浅いため余力がない。
・冬は痰の量が多くなる。
しかし今回観察された酸素化低下は、短時間のうちに呼吸が一時的に停止し、自然に再開するという現象の中で起こっており、さらに別の病態が存在していると考え、以下の可能性を挙げた。
①痰の垂れ込みにより一時的に無意識的に喉頭を締めている
→観察中、喉に力を入れているような仕草が見られた。
→現在は無力症が疑われており、病態が逆行する。
②喉頭軟化症などの閉塞性病変がある
→2017年の喉頭ファイバーでは明らかな異常を指摘されていないが、検査時、唾液が多く十分な観察はなされていない。
→酸素化低下が起こるときに吸気性喘鳴なし
CMSを背景とした無呼吸発作
→CMSでは特に誘因のない無呼吸発作の報告が散見される。
人工呼吸器などの介入を行わずに死亡に至った例もあり致命的であるが、メカニズムについては不明。呼吸筋は常時使用する唯一の骨格筋のため、筋疲労により一時的に脱力発作を繰り返すといった病態はありうる。

Liu ZM,et al. Zhonghua Er Ke Za Zhi.2018
Grace McMacken et al. J Neurol. 2018

#注入不良
母から、「気道感染などの全身状態が悪くなると、そこに力を出し尽くしてしまい、その後消化管の蠕動が悪くなっているような気がする。」との指摘があった。しかし、腸管運動を行う平滑筋に関わるアセチルコリン受容体はムスカリン性であり、ニコチン性とは異なるため直接的に連動している可能性は低く、実際に筋無力症候群と消化管運動の関連を示す文献も見つからなかった。

#社会的課題(特別支援学級or普通学級)
本症の患児は知的レベルはかなり高く、普通学級の授業でも対応できると思われる。しかし、人工呼吸器などのデバイスを使用していると普通学級へ受け入れてもらえないことが多い。
この背景には、そもそもデバイスを扱える人が少ないということと、デバイスがあっても知的レベルが健常な児がいる事実を多くの人が知らない現状がある。画期的な打開策は思いつかないが、まずは在宅医療の実際について積極的に周囲に広めていく姿勢を持つことが重要であると思う。