Most Impressive Case Report 2019.03 研修医A Most Impressive Case Report 2019.03 研修医A 【症例】 6歳 女児【診断】 てんかん性脳症(West症候群後)【現病歴】生後4か月 追視や頸定がなく、前医(A病院)紹介生後6か月 West症候群と診断。ACTH療法等で一旦シリーズ形成する発作は改善したが、強直発作が残存1歳 B病院紹介 遺伝子検査を含む精査でも未だ原因疾患は不明であり、ケトン食なども導入したが発作は難治に経過し、重度精神運動発達遅滞を呈するようになった。以後気道感染を反復して複数回入院。軽度グリシン高値があり(遺伝子解析を行ったが異常なし)、グリシン脳症の治療に準じてデキストロメトルファン(メジコン®20mg→30mg)投与を行っているが、効果はなかった。感染を反復するうちに肺胞が損傷していくため気管切開や喉頭気管分離、胃ろう造設をB病院では勧めたが、両親の受け入れは不良。感染に注意しながら1年くらいは自宅で診たいとの事であり2018年12月在宅医療を導入した。【既往歴】 気道感染反復で2017年は5回入院歴あり。【家族背景】父・母・弟、妹主介護者:母【医療資源】かかりつけ医:B病院 月1外来訪問診療:あおぞら診療所墨田【栄養】経口摂取できる。【薬剤】 オノンDS10% 100mg,ラモトリギン36㎎、トピラマート15㎎、メジコン30㎎、カルボシステインDS50% 1g、フィコンパ2㎎、ムコソルバン12㎎、小建中湯5.0g、酸化Mg0.33g 【訪問診療導入後経過】 2018年12月 訪問診療導入2019年1月 脳の委縮に伴い頭蓋骨が成長せず余剰頭皮が目立つようになる。38度以上の体温上昇は時々来すものの、重症気道感染は在宅医療導入後来していない。普段は呼吸器は装着しておらず、酸素需要もないが体調が悪化した時酸素化不良となった場合は鼻カヌラでO2 1.5L/分程度まで投与することはある。 【小児の気管切開の適応】 小児の気管切開の適応疾患としては、①上気道の狭窄や閉塞、②長期の気管内挿管、③死腔の減少及び気道内分泌物の除去、④気管内挿管脱落事故の予防、⑤呼吸管理の簡易化(『第113回日本耳鼻咽喉科学会総会臨床セミナー』小児の気管切開 適応と留意点) 【気管切開の利点】 気管切開は侵襲的な手技でさまざまが合併症を引き起こすリスクもあるが、上気道閉塞や上気道感染を反復する重症神経疾患患児により良いケアを提供することができる。(Tracheostomy in children with severe neurological impairment:A single-centre review 『Journal of Paediastric and Critical Care 』 Kwan-Fung LAM,Ping LAM) 【今回の場合】 ・気道感染を反復していること、気道感染を繰り返すことにより肺胞が損傷していくことを理由に気管切開や喉頭気管分離を推奨されているが、気道感染を反復している原因は? ①気道クリアランスの低下(気道の線毛運動障害、咳嗽反射の減弱、排痰障害、嚥下機能障害)②気管・気管支軟化症による吸気時の唾液のたれこみ増加③高IgE症候群など先天性免疫不全④4-5歳の時(本児が反復感染をきたした2017年ころ)アデノイド肥大があり上咽頭狭窄をきたしていた などが考えられる。①は、気道クリアランス低下の原因として気道線毛運動障害:気道の乾燥や炎症によって粘稠度の高い気道分泌物の貯留によって気道の粘液線毛運動が低下している可能性はある。咳嗽反射の減弱、排痰障害、嚥下機能障害:咳嗽反射は認められ嚥下機能には問題ない。在宅医療導入後も状態に変化はなく、経口摂取も良好で何でも食べる。②に関しては出生時所見としては特に指摘されていない。繰り返す気道感染はあるものの、喘鳴の持続や犬吠様咳嗽などの臨床症状はないが、気管支ファイバーなどで確認した歴はない。今後も気道感染を繰り返すようであれば施行を検討してもよいか。③先天性免疫不全に関しての精査は受けていない。④本患者が気道感染を繰り返していた2017年(4-5歳時)の入院時身体所見としてはアデノイドは特に指摘されていなかったが、4,5歳時反復気道感染があり6歳となった現在は落ち着いているという病歴からも、アデノイドが退縮したことによるものと考えられないわけではない。以上感染を繰り返していた原因として、①気道クリアランスの低下、②軽度気管支軟化症があった、現在のところは感染は落ち着いていることからも④アデノイドの肥大があって現在は退縮したことにより気道感染が落ち着いた可能性もある。現在は重篤な気道感染は起こさなくなっているが、2017年反復感染をおこし入院・挿管管理を繰り返して気管切開を提案した際、両親は気管切開を拒否し自宅で1年程度経過を観察することを選択した。反復感染の原因について精査したり、詳しい考察など提示していたら両親の受け入れも違うものとなっていたのではないかと考えた。しかし結果的には感染は落ち着いており、気管切開をしない選択をしたことも間違いではなかったと思った。 【小児の気管切開、両親の受け入れについて】 気管切開を勧められたとき多くの親は今まで自分の口と鼻で呼吸していたわが子が、気管切開という侵襲的な方法で呼吸をアシストしてもらわないと生命を維持できない段階まで病状が進行したのだと絶望する。そこからさらに、呼吸器を装着して呼吸を補助しないとならなくなった場合、一段階患児の病状が進んだような気持になる。自発呼吸の乏しい患者に対し生命維持を主たる目的とする成人とは異なり、小児の気管切開には①生命維持②くらし(患者の人生のストーリーとしての情緒社会的Spiritualな意味で)をよりよくするの二つの意味がある。今回は気管切開を行わなかったが、行う際のICに上記のような説明があるとより両親は受け入れやすくなるのではないかと考え今後の診療の参考になると考えた。 【参考文献】 重症心身障碍児のトータルケア監修:朝倉次男 へるす出版(『みんなで支える小児在宅緩和ケア』 平成30年度薬剤師継続学習通信教育講座 あおぞら診療所墨田院長戸谷剛) ・気道クリアランス:外界より吸入された細菌や異物,気道内の過剰な分泌物や細胞残渣などを粘液線毛輸送によって口側へ運搬排除し排痰させる機能.正常な粘液線毛輸送機能を維持するためには,上皮細胞の線毛運動とそれに接する気道液との協調作用が不可欠であり,その規定要素として上皮細胞の線毛運動周波数,気道内分泌物の量およびそのレオロジカルな特性などが挙げられる。・気道クリアランス障害を呈する疾患では,1)気道上皮細胞の線毛運動を活発にさせ,局所に滞留した分泌物を体外に排出させる.2)気道における粘液分泌を減少させることにより,気道液の粘稠度の低下を図る.3)閉塞性換気障害を合併する病態では,必要に応じて気道を拡張させる,などの対策が必要・気管・気管支軟化症は,息を吐いたときに気管や気管支の断面が扁平となり,内腔が狭くなる病気です.原因は気管支の近くにある大きな血管(大動脈)による圧迫や,気管の壁の中の軟骨がもろく弱いため,あるいは気管の発育異常によるものです.先天性食道閉鎖症の約10%に治療を必要とする気管軟化症が合併します.気道クリアランスを決定づける因子:①排痰による必要な吸気換気量と咳流量の確保、②適切な繊毛運動、③気道の確保 在宅医療において最優先されるべき事項は生命の安全な維持、次に健康の維持、最後に社会生活(人間らしく暮らすための娯楽など)である。