Most Impressive Case Report 2019.10 研修医A Most Impressive Case Report 2019.10 研修医A 【症例】7歳 女児【診断】脳幹部神経膠腫【現病歴】2018年8月 眼位の異常が出現。9月 症状増悪し、A病院受診。→脳幹部神経膠腫の診断。10月 B病院紹介受診。放射線治療(局所IMRT54Gy/30Fr)早期の症状再燃が予想された。2019年2月 あおぞら診療所介入開始。【既往歴】熱性けいれん(1歳半、2歳半)【生活歴】アレルギー:食品なし、薬品なし【家族背景】父・母・妹【医療資源】かかりつけ医:B病院、訪問看護【栄養】経口摂取【医療デバイス】なし【薬剤】アセトアミノフェン、アレジオン、ヒルドイド 【訪問診療導入後経過】 (2019年)5月 失調症状増悪、歩行困難。→MRIで腫瘍の再増悪。→テモゾロマイド内服開始。8月 摂食後のぜこぜこが出現。→HOT、モニター、吸引器導入。8月下旬 経口摂取困難に。9月5日 CVポート造設術施行。9月14日 高カロリー輸液開始。9月19日 夜間頻尿でアナフラニール12.5mg開始。→アナフィラキシー症状でER搬送。→CTで浮腫、水頭症なし、腫瘍増大あり。9月下旬 意思疎通可能だが、ぼんやりしていた。10月3日 RAでSpO2 90%前半の時間が増えてきた。4日未明 徐々酸素化不良となり、酸素投与開始。9時 意識障害、HR上昇、40℃台の発熱が出現。11時 往診時SpO2 70%(7LO2)、HR 180bpm、BT 40.3℃、 RR 1brpm(不規則、Cheyne-Stokes様)直ちにアンビューバックで用手換気開始した。薬剤を準備する間、用手換気を継続しながら、DEX、CTRX、グリセオール投与した。薬剤投与後も自発呼吸の回復は見られなかった。その間に両親、妹、祖父母、仲の良い友達、学校の先生が到着し、面会者が到着するたびに用手換気を一時中断して、本人に寄り添える時間をつくった。一連の面会の最後に、用手換気を再開しないことを両親に確認し、同意を得た。用手換気を終了してすぐにSpO2が急激に低下し、大きく息を吐くような動きがあり、動かなくなった。16時46分 死亡確認した。 【脳幹部神経膠腫】 ・びまん性橋膠腫が最多。・手術で根治が望めない。→標準治療はRadiation(48-54Gy)・予後は約10か月~1年(2年生存率10%、5年生存率2%)Hoffman LM et al J Clin Oncol. 2018・放射線治療で一時的な腫瘍縮小効果を認め、70%程度に症状の改善を認めるが、5~9か月程度で再増悪する。→早期からの緩和ケアが必要な病気の1つ。・ステロイドによる症状の一時緩和が見られる。・テモゾロマイドも含めて化学療法は無効。・テモゾロマイドが放射線治療後の症状悪化を早める可能性も示唆されている。Cohen KJ et al Neuro Oncol 2011 【本症例の急変について】 急激な呼吸抑制、頻脈、発熱などが見られ、腫瘍内出血などによる、急激に脳幹圧迫症状が出たものと推測できる。 【小児の緩和ケアの特徴】 ・死の受容の困難さ高齢者が亡くなる場合は「老いの結果の死は仕方ない」という受け入れのプロセスを得られることが多いが、小児の場合はその限りではない。→家族を含めたケアがより重要である。・成長、発達をする成長、発達に寄り添い、患児の人生を少しでも良いものとしてもらう。←人生で病気の占める割合が大人よりも多い。 【延命措置(人工換気を含めて)を終了するタイミング】 ・(大人の場合でも)コンセンサスはない。「蘇生不可能」と判断され、本人の生前の意思がある場合にはそれに従って、ない場合は家族が同意したときが多い。基本的には小児でも一緒だが、①小児の場合はコミュケーション能力の未熟さから、しっかりとした自分の意思を示すことは場合によっては難しい。②家族にとっても子供の死を積極的に決定する決断を下す心理的ハードルは高い。→大人以上にタイミングや受容は難しい。→納得して選択、決断してもらうには、患児や患者家族との信頼関係の構築が必須である。そのために目の前の問題に対して、患児や家族とともに悩み、ともに手を尽くすことが非常に重要である。 【今回のケースについて】 今回のケースの場合は、後から見ると、通常より長い人工換気となったかもしれないが、できる治療を行って、家族や大切な友人に会わせる時間を作れたことが、家族にとって患児の死を受容する一助になるのではないかと感じた。 【参考文献】 ・小児緩和ケアの現状と展望 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 【研修の感想】 病院での患者さんの生活は、その患者や家族にとってほんの一部にしかすぎないのだなということを、今回の研修で改めて実感しました。あおぞら診療所では、今まで病院でも見たことがない疾患の方がたくさんいらっしゃって、学問的にも興味深い経験をたくさんさせていただきましたし、本症例のようなお看取りや、大学病院で担当していた子の在宅導入に関わるという貴重な経験をすることもできました。在宅という物資の少ない場所での医療を提供することの大変さを感じつつ、不可能ではないのだということを今回の研修で感じました。また訪問看護や訪問リハという普段の自分と違う視点から患者さんと関わる機会をいただけたことも、小児科医になる身としては糧にしていきたいと思います。来年度から小児科専攻医に進みますが、この経験を大事にしてこれからも精進していきます。先生方、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、1か月間ありがとうございました。