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Most Impressive Case Report 2020.06 研修医A

Most Impressive Case Report 2020.06 研修医A

【症例】 18歳 男性

【診断】 びまん性正中神経膠腫
頭蓋内播種 脊髄播種
(Diffuse midline glioma. H3K27M mutant WHO gradeⅣ)

【現病歴】 生来健康 高校で野球をやっていた。
2019年
4月(17歳1ヶ月)肩、頭の痛み 右上下肢麻痺が出現。
5月 近医受診し、A病院に紹介受診。
       MRIにて延髄下端からC5に腫瘍性病変を認めた。
6月 高校に登校し、修学旅行に参加。
7月3日 麻痺と呼吸困難で緊急入院。
               頚髄病変の増大、頭蓋内播種、脊髄播種を認めた。
7月10日 脊髄腫瘍生検にて原病を診断。
7月13日 単純気管切開施行。
7月26日~9月9日 放射線治療(局所54Gy)+化学療法(テモゾロミド内服)。
8月8日 ベバシズマブ開始。
10月9日~11月1日 全脳照射(40Gy/16回)+化学療法(テモゾロミド内服)。
11月ごろ 徐々に耳が聞こえにくくなる。
12月4日 VPシャント術施行。
12月19日 テモゾロミド+ベバシズマブ維持療法開始。
   ご両親が化学療法継続で在宅移行を希望
2020年
4月 新型コロナウイルスの影響で両親と1ヶ月面会できず。その間意思疎通不能に。
5月20日 退院。あおぞら訪問診療開始。

【出生歴】 在胎37週 2498g 無痛分娩で出生

【既往歴】 原疾患以外特になし

【生活歴】 アレルギー:MRIの造影剤で発疹あり
     中学・高校で野球部であった。

【家族背景】 父・母  同胞無し

【医療資源】 かかりつけ医:A病院脳神経外科
     看護ST:B、C

【栄養】 経管栄養 朝:ラコール 600ml 昼:エネーボ 500ml
夕:ラコール400ml 眠前:白湯 400ml

【医療デバイス】 HOT(SpO2低下時に使用)、SpO2モニター、人工呼吸器、加温加湿器、気管カニューレ(カフあり)、吸引器、経鼻胃管、膀胱バルーンカテーテル

【薬剤】 イーケプラ,フィコンバ,ミヤBM,ガスコン,グルコン酸K,トラゾドン,ラコール,エネーボ,ベンフォチアミン,メベンダゾール,イベルメクチン,ジクロロ酢酸ナトリウム

【訪問診療導入後経過】

2020年5月20日 初回往診。訪問看護介入開始。
ADL:寝たきり、経口摂取不能、全介助
上肢のみ時おりビクビクと動くことがある。
5月28日 ベバシズマブの在宅での初回投与。
                 特記有害事象なく終了。

~考察~

【びまん性正中神経膠腫(DMG)について】
・小児脳腫瘍の約10~20%を占める
・脊髄、脳幹、松果体領域、視床にみられる。
・びまん性橋神経膠腫(DIPG)が最多
・H3K27M変異体は予後不良因子であり、DIPGの63%、
   DMG59.7%にみられる。
・標準治療は部分切除可能であれば、外科的治療+放射線療法
・テモゾロミドを含めて化学療法は無効とされている。
・予後は約10ヶ月~1年(2年生存率10%,5年生存率2%)
                                          Hoffman LM, et al.J clin Oncol. 2018
                                          Kyle Wierzbicki et al,Curr Oncol Rep.2020

・DMG患者に対する定位生検は96.1%で安全であった報告。
                                          Christina Hamisch et al.J Neurosurg Pediat .2017

→ H3K27Mの組織診断は研究目的が主であり、治療法が確立しているわけではない。
・ONC201(DRD2/3の小分子選択的拮抗薬)が放射線治療後に再燃したDIPG患者に対して、2人が53週と81週で増悪がない状態を維持できている報告。
                                           Andrew Schi et al.J Neurooncol.2019

【小児におけるEnd of life careについて】
「亡くなりゆく子どもと家族の苦痛を予防すること、苦痛を最小限にすること、子どもと家族のQOLの向上を目指すもの」
・子どもが苦痛を感じていると思った親は、死別後の抑うつ傾向やストレス状態が高くなる報告がある。
・毎日の生活の中で目指す必要がある。
→ 終末期に自宅で過ごすことで、子どもは子どもらしく、親は親であることや一緒にいることの喜びを実感し、家族である感覚を抱きやすく、親子の相互作用が保たれる。

医療者は子どもと家族の苦痛を最小限にするべく、医学的観点だけでなく、子どもや家族が自分の気持ちが表現しやすいと感じるように寄り添っていくことが重要。

【本症例について】
本症例の場合は、まだ動けていたタイミングで修学旅行に参加したことは身体面だけで考えればマイナスかもしれないが、 友人との時間を持つことが出来たという点においては本人や家族にとってはプラスだったと考えられる。
本症例ではAYA世代ということもあり、本人の治したいという気持ちが強く、放射線治療や化学療法を施行し長期入院となっていた。1ヶ月両親と会うことができなかったことは、家族にとっては大きな1ヶ月であり、新型コロナウイルスの影響はあるが、面会の例外を作ったり、早期に在宅診療の移行などもう少し早く模索する余地はあったかもしれない。

【研修の感想】

4週間の研修で、様々な重症心身障害児といわれる子とその家族の日常の暮らしを見ることが出来ました。そしてそのすべての家族がこの日常を獲得するまでに途方もない努力と葛藤があっただろうと予想できます。にもかかわらず、私が接した方々はそれを感じさせないくらい日常の暮らしを獲得していました。そのような方々でも、今回の4週間で最も聞こえた声は「外出するのが怖い」「病院は感染が怖くて行けない」でした。新型コロナウイルスの影響真っ只中にあり、普段以上に病院受診困難であるこの状況下で在宅診療は、患児やその家族の不安や苦痛を取り除く一助になっていると思いました。将来、小児科医になる身として、患児とその家族が日常の暮らしを獲得し、その暮らしを維持するように、身体的、精神的にサポートできるよう精進できたらと思います。このような貴重な経験を提供して頂いた、先生方、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、4週間ありがとうございました。

【主な参考文献】

・実践!!小児在宅医療ナビ(前田 浩利 編)
・小児緩和ケアの現状と展望 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団