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Most Impressive Case Report 2021.08 研修医A

Most Impressive Case Report 2021.08 研修医A

【症例】10歳 男性
【診断】Hirschsprung病(全腸型)
【現病歴】
在胎37週3108gで出生し、生後すぐより腹部膨満・嘔吐で上記診断となりました。その後、小腸移植も考慮され、A病院に紹介となった。2010年11月に腸炎予防目的で小腸切除の上、胃瘻・空腸瘻・空腸・回腸人工肛門増設術を施行。2013年12月19日より訪問診療開始となった。
【出生歴】在胎37週 3108g
【既往歴】本疾患以外特になし
【生活歴】アレルギー:ミルクアレルギー
小学校は普通学級
【家族背景】父・母 ・弟・妹(同疾患)
【医療資源】
かかりつけ医:A病院小児外科
看護ST:B訪問看護ST
【栄養】
経口摂取 120g 白米+おかず3回
経静脈栄養
・19時ー21時まで2時間かけて点滴
 フィジオ35 1000ml
・21時ー翌朝7時半まで10時間かけて点滴
 フルカリック3号  1103ml
 アセレンド     1ml
 エレジェクト    0.5ml
 ノボヘパリン    1.1ml
・週1回火曜日35ml/hで1時間半かけて投与
 20%イントラリポス 75ml
【医療デバイス】
CVカテーテル、胃瘻、シリンジポンプ、カフティーポンプ
【薬剤】
ビオスリー配合OD錠、ミヤBM細粒、マーズレンS配合顆粒、ウルソ顆粒5%、エルカルチン内容液

【訪問診療導入後経過】

2013年1月:病原性大腸菌の増殖による下痢症を頻回に呈し、整腸剤を用いていたが経過中ミルクアレルギーを発症し、精査目的にA病院入院。エレンタールに変更後もしばらく下痢を繰り返していたが、経口摂取内容と補液管理による調整を経て徐々に安定。
2014年冬:A病院にてセレンの治験を開始。
2015年8月:CVカテ感染で入院、抗菌薬加療。
2016年8月:A病院耳鼻科にて扁桃とアデノイド摘出。
2018年8月:CVカテ感染で入院、抗菌薬加療。
2019年8月:肛門痛と違和感が持続し、8/27-9/1までA病院入院。直腸内の便塊貯留、粘膜脱→摘便で改善
2020年12月:残存回腸末端から結腸への感染→A病院にて腹腔鏡補助下結腸亜全摘、粘液瘻再造設。
2021年4月:CVカテ感染疑いでA病院入院。抗菌薬加療後に退院。

~考察~

【  Hirschsprung病について 】
・腸管の壁内神経節細胞が先天的に欠如し、便秘、腸閉塞症状をきたす
・Hirschsprung病は約5000人に1人の割合で発生し、全体の男女比は3:1から4:1
・全結腸以上は全症例の9%、さらに小腸型は2.9%
・兄弟での再発リスクは短域型の場合は約3%、長域型の場合は最大で17%とされている 。兄弟姉妹の再発リスクは女性の場合に高く、また複数の家族が罹患している場合にも高くなる。
・診断は臨床症状と直腸生検によって確定
・無神経節腸管の切除と肛門への吻合が根治術、全結腸
以上ではTPNや小腸移植も

中心静脈栄養(TPN)の在宅管理について
積極的な医療の関与が必要!
・最も注意すべき合併症は感染症
・フィルター付き「TPN専用ルート」を使用すべき
・フィルターは薬剤との相性があるため、薬剤師との連携が必須
・TPN用ルートの交換は無菌操作であり、医療者が積極的に関わっていくべき
・混注で使う針はなるべく細いもの(21G以下の太さ)を使う
・既製のTPN製剤は成人用であり、ベストではない
・TPN製剤は薬剤師がクリーンベンチの中で無菌的に調製→対応できる薬局が少ない
訪問看護師の役割:手技を「在宅流」に噛み砕き、再構成、専門用語と専門知識の翻訳者、処方や調整・投与速度の確認、混注やルート交換の指導
在宅医の役割:処方や調整、投与速度の確認、TPNに対する相談にのる、経腸栄養への移行などの提言
薬剤師の役割:TPN製剤の調製、必要に応じ在宅まで配送、薬剤管理の指導

本症例における訪問診療の役割について
家庭と主治医をつなぐ
CVカテ感染や残存腸の感染などで何度か入院加療している。状態悪化の際には在宅医として入院での加療が必要かどうか判断し、主治医と連携する体制を整えておく。
家庭と学校をつなぐ
ご本人はとてもしっかりしていて現在少量だが経口摂取もできており、小学校の普通学級に通っている。修学旅行を看護師付き添いにするかどうかの相談もしており、今後のイベントに本人が積極的に参加できるように在宅医としてサポートする必要がある。
健常児の兄弟への配慮
妹は同疾患で当院で介入しているが、弟は健常児である。兄弟2人が医療的ケアが必要なことから健常児である弟が日常で孤独感や寂しさを感じている可能性がある。往診の際に弟にも話しかけるなど配慮が必要。
思春期への対応
今後、中学高校と進学し思春期を迎えるにあたり、ご本人だけとの時間を設けることも重要。秘密の保持を約束し、合意を得たものや危険がある場合は保護者に伝える。

【研修の感想】

病院で研修している時は「退院」がゴールになってしまい、患者さんの退院後の生活まで考える機会はほぼありません。あおぞらさんでは患者さんやその家族の退院後の生活を身近に知ることができ、病気の家族を支えながら日常生活を送っていくことの困難さを改めて実感することができました。また、在宅医療は両親を社会的に孤立させないという重要な役割も担っていることを知り、小児の在宅医療は地域にとって必要不可欠であることがわかりました。訪問リハビリを見学した時に呼吸器リハの実施前後で聴診での聞こえ方が全く違かったことに驚きました。実際にリハビリの効果を実感することができ、とても貴重な経験をすることができました。先生方をはじめ、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、4週間本当にありがとうございました。

【主な参考文献】

・実践!!小児在宅医療ナビ(前田 浩利 編)
・「医療的ケア」の必要な子供たち(内多 勝康 著)
・小児期からの移行期医療を実践しよう!(一ノ瀬英史 編)