Most Impressive Case Report 2022.09 研修医A
Most Impressive Case Report 2022.09 研修医A
【症例】9歳 男児
【診断】脳幹部神経膠腫
【現病歴】
2020年8月はじめ:歩行時のふらつき、つまづきやすさ、手足の脱力、複視が出現。
2020年8月24日:A病院受診。脳幹部に腫瘍性病変指摘され、同日B病院を紹介。
小脳失調、顔面神経麻痺などの脳神経麻痺症状を認め、典型的な症状と経過、画像所見より上記診断。
2020年9月6日~10月19日:放射線局所照射(54Gy30分割)を実施。治療と共に症状はほぼ改善。
2020年10月16日:退院。
2021年12月:ふらつきなどが再出現。
2022年1月18日:MRIで腫瘍増大確認。
2022年1月27日:ご家族とご本人の希望あり、訪問診療開始。
【出生歴】特記事項なし(詳細の記載なし)
【既往歴】なし
【アレルギー】アレルギー性結膜炎、花粉症
【生活歴】小学校3年生
【家庭環境】
父40代会社員(在宅勤務8割)
母40代会社員(有給休暇中。今後介護休暇を取得予定)
兄弟なし。祖父母は地方在住。
【医療資源】
かかりつけ医:B病院
ST:Cステーション
【栄養】普通食
【医療デバイス】なし
【薬剤】テモゾロミド(100mg)2錠1日1回、バクタ2錠1日2回(月、水、金)、カイトリル(1mg)1錠1日1回、ドンペリドン1錠1日1回吐き気時に頓服
【本人の生活と性格】
・人見知りで治療や病院、注射は嫌い。内服が苦手。パスタ、お刺身・お寿司大好き。
・こわがり、心配性。なんでも親に話すよりは選んで話すタイプ。
・うまくできないことに取り組むのは嫌いで、失敗に対してわざとやったようなふりをすることがある。
・学校に行く日は朝友達が迎えに来て、登校8時過ぎ、下校は月水金14時過ぎ、火木15時過ぎだったが、現在は3・4時間目までもたずにいったん帰宅、22時に入眠。2時間連続の授業は困難。テモダール内服中は完全オンライン。習い事は今はお休みしているがスイミングとテニス、塾。
ゲームが現在の楽しみ。
【訪問診療導入後経過】
2022年1月27日初回往診
2月7日 web両親面談
→ご両親の気持ちを尊重しながらチームでささえていく方針を共有。
2月10日 定期往診②。体調は著変なし。
2月22日 B病院受診。血液検査異常なし。
3月3日 定期往診③。ほとんど外には出ず、朝に気持ち悪がる様子がある。摂食は良好。
3月22日 B病院受診。血液検査異常なし。テモダール内服開始。
3月23日/4月5日 定期往診④⑤。体調著変なし。
4月11日 前日から足の力が入りにくい、疲れてふらつくと臨時往診
4月18日 定期往診⑥。ふらつきは改善。
4月19日 B病院受診。採血実施。異常なし。
5月26日/6月7日 定期往診⑦⑧。体調著変なし。
6月18日 日光旅行
6月20日/7月4日 定期往診⑨⑩。体調著変なし。
7月12日 B病院受診。
7月29-8月1日 宮古島旅行。
8月2日 定期往診⑪。体調著変なし。
8月16日 B病院受診。
8月29日 物が二重に見える。だるいと訴えあり。
9月5日 定期往診⑫。間欠性複視あり。
9月22日 定期往診⑬。複視頻度増加。
【大人と子供の看取りに向けての相違点】
・子供の感覚:大人のように「時間に限りがあるので何かをしたい」と考えるよりも毎日、自分らしく、子供そのものありのままに生きている。伝える医療者の認識ではなく、子供自身が毎日の中でどう感じているか子供の感覚に注目することが大切。
・親との関係:変わりゆく子供の状況を目の当たりにし、親であるにも関わらず何もできないと感じ、さらなる延命を求めることがある。これが親だからこその反応で死を受け入れていない、理解していないための反応ではないことを理解する。子供をなくすことは子供を通して感じていた社会とのつながりもなくす体験であることを理解する。
【在宅での看取りにむけて~ポイント~】
・どこでどう時間を過ごすか適切に何度も情報提供されたうえで、選択し、一度決定したことが絶対ではないことを保証する。
・終末期を告げられ、一度に在宅医療に移行する場合子供と家族に大きな不安を与える。そのため早期在宅医療導入を行い、病院診療に併診することで子供と家族に在宅医療を知ってもらい、看取りの場を含めた重要な選択を支えることが重要。
・放射線照射後に一時的に症状が改善し、ほぼ元通りの生活が送れるハネムーン期から在宅医療を導入する。
・病院、地域の訪問看護ステーション、リハビリスタッフ、通学している学校とも連携、情報共有し、子供と家族を支える。
・兄弟がいる場合は一人一人が大切な家族であることを伝え、疎外感や不安を増大させないようにチームの一員に加える。
【在宅での看取りにむけて~本症例の対応と考察~】
・医療的ケアが必要ではない時期から家族と児の病状理解について両親が彼に何を伝えたいか、伝えたくないかを確認した。はじめは伝えることを躊躇していたが適切な情報提供する重要性を伝えた。→本人の性格や年齢を考えると伝えることが適切だったのか。
・学校とも連携し、病院には写真などを通して児の様子を共有している。兄弟もいないため看取り後の家族のケアを考える必要がある。→病院にいてはわからなかったが在宅医療に携わってその子がその家でどのくらい愛されているのか、生活の中心であるのかを感じた。この家では家中にこの子の好きなマリオや作ったものがあふれており、両親とも溺愛している様子が見られた。この子をなくしてしまったときにあふれている物がより喪失感を増幅させてしまうのではないか。
〇この子について考えながら様々な対応がこれでよいのかと思うことばかり。だが困難を抱えながらも幸せそうに家族で暮らしている様子が見えた。医療者がこれでいいのかと思うよりも生まれてきてよかった、出会えてよかったと家族とともに思えるような時間にどうすべきか考えることが重要なのだと思う。
【研修の感想】
【研修の感想】
1)実践!!小児在宅医療ナビ 前田浩利 編
2)小児科診療2022 vol.85 No.8
3)NICUマニュアル