Most Impressive Case Report 2024.02 研修医A Most Impressive Case Report 2024.02 研修医A 【症例】13歳10ヶ月 女児【診断】悪性ラブドイド腫瘍【現病歴】2011年4月(1歳1か月)左腎由来の悪性ラブドイド腫瘍を発症し左腎全摘出。化学療法、腫瘍床への放射線照射を実施。2013年7月(3歳)右腎門部に腫瘤性病変を認め、約1年間の化学療法後右腎部分切除+術中放射線照射を施行。その後8年間ほど無治療で経過。耐糖能異常や思春期早発症はあったが、原疾患に対しては経過観察で元気に過ごせていた。2022年12月 下腹部膨満、食思不振を認め骨盤内腫瘤を指摘された。生検にて新たな悪性ラブドイド腫瘍と診断。全摘出は困難であり腫瘍増大による腸閉塞リスクが高く、人工肛門、CVカテーテル、腎瘻カテーテル造設を実施した。ビンクリスチン+イリノテカンで治療開始。2023年9月 ゲムシタビン+ドセタキセルで治療2023年12月 体幹部CTにて骨盤内腫瘍の増大、肺・肝転移を認め、ドキソルビシンでの治療開始【出生歴】特記事項なし(詳細の記載なし)【既往歴】本疾患以外特になし【アレルギー】カルテ上記載なし【生活歴】2023年10月まで軽音の部活のみ参加【家庭環境】父(会社員)・母・姉(高校1年生)・弟(CPA蘇生後、重度心身障害児)【医療資源】かかりつけ医:A病院リハビリ・ST:B訪問看護ステーション【栄養】経口摂取可能【医療デバイス】CVカテーテル,ストマ,腎瘻【薬剤】バクタミニ配合錠4錠分2 (週3回),フルコナゾールカプセル100mg 2C分1,セイブル錠50mg 3錠分3,オロパタジン塩酸塩OD錠5mg 2錠分1,MSコンチン錠10mg 3錠分3MEPM 1.5g q12h発熱疼痛時 カロナール錠200mg疼痛時レスキュー オプソ5mg (1日2-4回)A 【悪性ラブドイド腫瘍について】 ・腎、肝、軟部組織、中枢神経などの体のあらゆる部位に発生する腫瘍であり、多くが1歳未満の乳児期に発症する。・病因は不明であるが、癌抑制遺伝子であるhSNF5/INI-1遺伝子の欠失、変異が発症に関与していると考えられている。・予後は不良であり、腎原発のラブドイド腫瘍の4年生存率は28.5%。特に6か月未満での発症例の予後は悪く、4年生存率は8.8%。・外科手術、多剤併用化学療法と幹細胞移植を併用した大量化学療法、放射線療法を組み合わせた治療に対して臨床試験が行われているが、いずれの臨床試験においても治療成績は十分ではなく、標準治療と考えられる治療は確立されていない。 【訪問診療導入後経過】2023/12/21初回往診 12月6日 胸腹部造影CTにて原発巣の増大、肺・肝転移を指摘12月11日<カンファ>→自宅で本人の負担が少ない治療を行っていく方針12月12日 アドリアマイシン投与開始12月15日 MSコンチン開始12月21日 A病院を退院し往診開始12月25日 採血にて炎症反応改善傾向であり、MEPM中止12月28日 40℃の発熱あり、腫瘍熱が疑わしいが培養採取後MEPM再開12月31日-1月1日 埼玉のおばあちゃん家へ帰省1月4日 化学療法目的にA病院入院1月5日.6日 アドリアマイシン投与1月7日 退院1月23日 呼吸苦の増悪ありA病院へ入院1月24日 CTにて肝転移巣の著明な悪化1月27日 ヴォトリエント開始1月28日 退院1月29日 モルヒネをPCAへスイッチ1月30日 傾眠傾向1月31日 利尿停止2月1日 お看取り 【本症例を通して】 本症例では娘に最期の時が近づきつつあることを感じながらも、冷静に現実と向き合い娘のために何ができるかを考え行動する母親の姿が印象的だった。娘を看取らなければならないという残酷な現実に直面しつつも、あれほど母親が自然に娘と接し、支えることができたのは、長期間に渡る娘との闘病の過程で様々な経験をしているという理由もあるとは思うが、最期の1か月半を在宅ケアを受けつつ自宅で一緒に過ごしたからではないかと思う。在宅診療を実際に経験するまで自宅で最期の時を迎える目的は、住み慣れた家で家族や友人と自由に過ごすことができるという看取られる側のためにあると思っていた。しかし在宅ケアを通して日々の子供の様子や状態を肌で感じることで子供が亡くなりゆくこと、終末期にあることを徐々に家族が認識し、自宅でケアを行うことで自分が中心となってこの子のお世話をできた、やりきったという達成感や満足感を得ることができるだろう。家族の心の準備ができることは結果として子供が子供らしく過ごし、穏やかで安心して旅立つことにつながる。また家族のやりきったという達成感は子供の死という深い悲しみを乗り越えることにつながる。本症例を通して在宅医療は看取られる側と看取る側どちらにとっても大きなメリットになるということを強く感じた。お看取り後のカルテを読んでいてグリーフケアも印象に残った。病院でのお看取りは納棺を見届け葬儀社の車までお見送りする程度だが、亡くなった後も自宅に伺いご両親とお話をする時間を設けることは、訪問診療における医療者と家族の距離感の近さを表しているように思う。ただ子供を亡くした家族はその事実を背負いながら自分たちの生活を送らなければならず、前を向いて生きていくためには時間が必要である。グリーフケアは家族が立ち直るサポートとなりうるが、死別時の子供の身体的な変化や旅立ち方によって様々な配慮が必要であり、かけるべき言葉のチョイスの難しさを感じた。また家族との距離感が近い分信頼関係の構築は必須であり、病院勤務医とは違ったスキルが必要になると感じた。 【本症例における訪問診療の役割について】 家族と過ごす時間の確保 自宅で治療を行いつつ、残された時間を家族に囲まれながら過ごすサポートを行った。症状のコントロール 疾患に伴う疼痛に対しモルヒネやPCAを導入し、ご本人ができる限り苦痛を感じずに生活できるよう疼痛コントロールを行った。家族へのケア 自宅で看取るにあたっての家族の不安を解消し、何をしてあげるのが本人にとってよいか助言を行った。 【研修の感想】 1か月間様々な家庭に伺い、医療機器で溢れて病室のようになっている部屋やテキパキと慣れた手つきでケアを行うご両親の姿を見て、世の中にこんな家庭がたくさんあるんだと衝撃を受けました。普段病院で勤務しているときは「あとこのデバイスが外れれば」や「〇割食事がとれれば」など常に退院をゴールに考えていましたが、訪問診療研修を通して患者さんそれぞれに退院後も病気と向き合いながら過ごしていく人生があるということを改めて実感し、今後は患者さんの退院後の生活も考えて寄り添っていきたいという想いが強くなりました。初期研修の段階で訪問診療に携われたことは貴重な経験であり、今後の医師人生において本当に大きな糧となると思います。先生方、事務さん、ドライバーさん、スタッフの方々、約1か月間本当にありがとうございました。 【参考文献】 実践!!小児在宅医療ナビ 前田浩利 編