Most Impressive Case Report 2024.05 研修医A Most Impressive Case Report 2024.05 研修医A 【症例】5歳7ヶ月 女児【診断】後縦隔原発神経芽腫 INRGR高リスク分類【現病歴】・2021年2月(2歳4か月時)に初診で受診 神経芽腫の診断→05A1×4コース HD×2コース 13CisRA×5コース施行し治療終了・2022年8月 治療終了後3か月で右大腿痛を認め、神経芽腫の骨髄再発の診断→ICE療法施行 症状の改善とMIBGでのPR・2022年11月 TC2コースでTI療法に変更・2023年8月 TI療法11コース終了 ・2023年9月 FDG-PETで縦隔リンバ節への集積と同部位のMIBGの集積を認めたため再発と判断・2023年10月 ICE療法を再度実施したが、効果は限定的・2024年3月 TI療法を3コース継続後、FDG-PETでPD・3/9より集積部位に一致した頚部痛と股関節痛が出現家族へは1ヶ月程度の生命予後であると伝え、在宅医療に切り替える方針となった。【出生歴】詳細不明(記載なし)【既往歴】なし【アレルギー】food:なし drug:なし【生活歴】通園なし(保育園は全然通っていない)【家庭環境】父(自営業)・母(主婦)・長男(中1)・次男(小3)・本人【医療資源】かかりつけ医:A病院 ST:Bステーション、Cステーションリハビリ:やっていない→導入開始薬局:D薬局【栄養】経口摂取 【医療デバイス】 CVカテーテル IVHカフティポンプ【薬剤】エンドキサン錠50mg 粉砕 40mg 1日1回夕食後 スインプロイク0.5錠 1日1回朝 コートリル 0.6錠 1日2回 朝夕 カロナール原用量 150mg 1日3回 内服継続中、必要時アセリオに変更 【訪問診療導入後経過】 2024/3/20 初回往診3/18 A病院退院前会議→在宅医療導入決定3/20 退院、初回往診3/28 朝から左足股関節疼痛増強あり A病院受診VCR投与 39℃台の発熱出現3/29 臨時往診 デカドロン混注開始 モルヒネPCA増量3/31 解熱し疼痛も消失 ジブリ美術館行けた4/25 A病院受診、CT撮影 CPM内服開始5/2 眼を開けることができず A病院受診VCR投与 受診中に眼がどんどん腫れてきた 夜から38℃以上の高熱あり5/3 A病院で照射実施(左眼窩と右髄膜)5/7-9 照射②③④ 5/10 ディズニーホテル宿泊5/11-12 うみとそらのおうち(こどもホスピス)5/13 照射⑤5/16 A病院受診 輸血後血圧上昇あり5/19 頭痛 嘔吐1回あり5/20 頭痛継続、活気低下、傾眠、徐脈傾向 脳圧亢進の可能性5/23 A病院外来 肝酵素上昇あり 肝転移示唆5/26-27 うみとそらのおうち(こどもホスピス)<輸血>PC:3/28 4/15 5/2.9.16.20 RCC:5/2.1 【神経芽腫について】 ・胎生期の神経堤細胞を起源とする細胞ががん化したものであり体幹の交感神経節、副腎髄質に多く発生する。約65%が腹部であり、その半数が副腎髄質、それ以外には頸部、胸部、骨盤部などから発生する。・発症頻度は米国の報告で、15歳未満の小児腫瘍の8~10%を占め,7000人に対して 1人の発生割合である。小児がんの中では白血病、脳腫瘍に次いで多くみられる腫瘍である。・神経芽腫患者の約70%は診断時に転移巣がみられる。・予後は診断時年齢、臨床病期、生物学的因子と強く関連する。・治療は国際的標準でのリスク分類であるINRGRに基づき、4群に分類される。 【本症例を通して】 末期がん終末期の患児・ご家族が限られた時間を過ごしていく中で、医師は本人・ご家族のお気持ちに寄り添いながら症状の緩和・心理的なケアを行いQOLの向上を目指していくことが必要である。本人の受け入れ終末期では本人が限られた時間を可能な限り充実して過ごせるように、苦痛の緩和はもちろん、自身がどのように病状をとらえているのか、今後の過ごし方などを医師として信頼関係を築いたうえで話し合うことが必要である。ご両親の受け入れ父親は比較的状況を正しく受けとめ、今後の方針についても理解している。しかし、母親はまだ受け入れに時間がかかる印象である。両親と接することの多い在宅医が両親の意向を確認し、治療方針を通院先の主治医とともに決定することが必要になっていく。また治療のほかにも、両親が少しづつ受け入れを進めていけるように、現状の不安を解消しサポートしていく。健常児の兄弟の受け入れ兄弟は健常児であり、祖父母も含めて周りの人の死を経験したことがないため、ご家族で現在の状況や今後のことを話し合える環境を作るようにするべきである。また両親が患児にかかりきりで運動会に来てもらえなかったエピソードなどを聞き、日常で寂しさを感じている可能性があると考えられるため、往診の際に話しかけるなど配慮が必要である。→往診の短時間に話を聞くのは困難な場合もある。訪看さんやリハさんとの情報共有も必要である。施設・団体終末期を充実して過ごすため施設や団体の支援も有用である。うみとそらのおうち:療養生活を送る子供とその家族が利用できるホスピスメイク・ア・ウィッシュ:難病の子供の夢をかなえるため設立されたボランティア団体 【本症例における訪問診療の役割について】 トータルペイン 全人的苦痛身体的苦痛:大腿・股関節・頸部の疼痛、頭痛、食欲低下、嘔気・嘔吐、発熱精神的苦痛:症状の進行による苦痛・心理的不安社会的苦痛:保育園に行けない、遊びに行けないスピリチュアルペイン:家族の負担になりたくないという責任感→多職種の密な連携を行い、在宅医療・通院にて可能な限り苦痛を減らしていくことが大切 【研修の感想】 在宅医療に同行させていただくのは今回が初めてで、様々なことを学ばせていただきました。在宅医療と一口にいっても患者さんの家庭環境によって対応は大きく異なり、それぞれの状況に応じて診療する必要があると気づきました。今まで大学病院では患者さんを退院させることだけを考えて診療していたことを痛感し、患者さんは一人ひとり家族とともに退院後の生活を送っているということを実感しました。この研修で学んだことを生かして、今後は患者さんのバックグラウンドや退院後の生活にも配慮しながら医療に従事していきたいと思います。ご指導いただいた先生方、事務の方、ドライバーさん、皆さん大変お世話になりました。一か月間本当にありがとうございました。 【参考文献】 1) 実践!!小児在宅医療ナビ 前田浩利 編 2) 小児がん診療ガイドライン2016年版