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Most Impressive Case Report 2025.8 研修医A

Most Impressive Case Report 2025.8 研修医A

【症例】
2歳男児
#1. てんかん
#2. 慢性腎疾患
#3. 貧血・輸血既往・鉄欠乏
#4. 病弱な頭部に対する保護
【現病歴】
診断未詳の多発奇形(小顎症、前額部および頭蓋底の骨無形成、上眼瞼欠損(眼瞼形成術後:2023/04/20),両眼開離:気管支軟化症、肺低形成)の男児。
在胎22週に胎児奇形疑いでA病院にて周産期管理を開始。
在胎27週より羊水過多に対して2回の羊水除去を実施。経過中に小顎症と顔面奇形が確定し、気道確保困難が予想されたため、妊娠36週2日で予定帝王切開術の方針となった:
出生時体重 3060g(+1.81SD)、出生時身長54.0cm(+4.15SD)、出生時頭囲35.5cm(+2.33SD)。
生後すぐより用手換気と気管内挿管で換気維持でき、同日(日齢O)に単純気管切開術を実施。
高度な気管軟化症とベル型胸郭・肺低形成も指摘され、人工呼吸器管理も開始。頭蓋内精査の結果、巨大大曹またはくも膜胞疑いとなったが、脳実質や下垂体構造に異常なし。
以後も臨床的な発作なく経過。
生後3か月時に上眼瞼欠損に対して、下腹部からの植皮により眼瞼形成術を実施。
生後すぐより腎機能障害の遷延あり経過観察中。
生後5か月で在宅調整目的にB病院へ転院。
生後6か月で自宅退院。
0歳10か月(2023年10月)腹腔鏡下胃瘻造設+噴門形成術施行。
0歳11か月(2023年12月)ボールバルブ症候群、急性胃粘膜病変に対して輸血実施。
1歳1か月終日人工鼻管理に変更。
1歳10か月てんかん治療開始。
2024年9月脳波上てんかん波認めLEV追加増量。
2025年1月よりPB漸減。
主治医はB病院(小児科、小児外科)、A病院(形成外科、耳鼻科、腎臓内科、眼科、歯科)。
※頭蒸骨・顔面骨の無形成のため、ウイルス迅速検査も含めた鼻咽腔を経由した手技はすべて不可。
【医療資源】
デバイス:気管カニューレ、人工呼吸器、加温加湿器、HOT、SpO2モニター、アンビューバッグ、胃瘻、ヘルメット
【家族構成】
父(20代、CMプランナーであるが副業を行っていていずれは副業で独立する予定)、母(30代、外国籍、コンサルの管理職)の3人暮らし
【大島分類】

【超重症児スコア】
人工呼吸器(10)+気管切開(8)+酸素投与(5)+頻回な吸引(8)+体位交換(3)+経口胃管(5)=39点

考察

眼瞼コロボーマについて
眼瞼コロボーマは,トリーチャー・コリンズ症候群,Goldenhar症候群等でよくみられる。トリーチャー・コリンズ症候群は、外耳道閉鎖あるいは中耳の耳小骨の形態異常、頬骨弓低形成による眼瞼裂斜下、下眼瞼外側の部分欠損、顔面骨低形成による小下顎などを特徴とする。原因遺伝子にTCOF1、POLR1B等の変異がある。Goldenhar症候群は、下顎低形成による顔面非対称性、耳介および/または眼の奇形、ならびに脊椎の異常という古典的三徴があり、大部分が散発例で、5p欠失、14q23.1重複、または18番染色体異常/22番染色体異常等が原因である。本症例はいずれの診断もついていないが、類縁疾患である可能性が考えられる。

診断未詳であることについて
本症例は多発奇形が見られるが遺伝子診断には至っていない。遺伝子診断により早期の疾患の発見、目的を絞った管理・予防、適切な治療の選択等が可能になると考えられるが、一方で診断をつけることによる精神面や行動面へのリスクも考えられる。そこで今回、遺伝子診断による知覚されたリスク、精神面・行動面における影響についてシステマティックレビューを行った研究について調べた。結果として、事前の遺伝子診断は精神面に対しては特に影響を及ぼさず、行動面に対しては少し影響が見られ、知覚されたリスクには変化を及ぼさなかった。
本症例が遺伝子診断に至っていない理由はカルテからは確認できなかったが、動画配信サイトに投稿されている動画から推察するにありのままのお子さんの姿を受け入れたいというお気持ちが強いのではないかと思われた。

参考文献:A systematic review of perceived risks, psychological and behavioral impacts of genetic testing. Jodi T. Heshka, et al.、MSDマニュアル、小児慢性特定疾病情報センター、視覚聴覚二重障害の医療

本症例を通しての感想

最初にカルテを拝見した際は多発奇形がどのようなものなのか想像できなかった。実際にお宅に伺ってみると、お顔にだけ特徴があり、無邪気に遊ぶ患者さん、私たちを明るく出迎えてくださったご両親を見て少し拍子抜けした。重度の奇形があり、たくさんのデバイスにも繋がれているのだとしたら、きっとご本人は活発ではなく、ご両親も心配から明るく振る舞うことは難しいのかもしれないと勝手に思い込んでいた。ご両親が配信される動画を視聴したところ、そこではご家族でお花見に行ったことなど、何気ない日常の様子が配信されていた。ご機嫌よく過ごされているご本人はとても愛らしく、ご両親は心から患者さんを愛していて、子育てを楽しんでいるように思えた。コメント欄にも、同じように医療的ケア児を持つご家族の方等から励ますような内容がたくさん書かれていた。一方で、心無いコメントを寄せる方々も見受けられた。もし自分がご両親の立場であったら、そのようなコメントに怯え動画配信などできないかもしれないが、それでもご本人が生きやすくなるためにと発信を続けるご両親の愛情の深さに感銘を受けた。

研修を通しての感想  

研修の最初のうちは、もし自分にこのような子供が生まれたときは育てられる自信がないと思っていた。しかし戸谷先生から「何も反応がないように見える患者さんでも、こちらが思っている以上に色々なことを理解しているのですよ。」と伺い、患者さんとご家族や先生方とのコミュニケーションに注目するようになった。すると、ご両親や先生方が楽しそうに応えているのを見て、障害があるだけで患者さん方は健常者と大きく変わらないのだと思った。徐々に医療的ケア児の方々に対して「守ってあげないと」という思いが芽生えるようになり、これが訪問診療に責任感を持ちながら従事される先生方のモチベーションになっているのだろうと思った。あおぞら診療所が開設された当初は3人の医師で、東京都区内全土に対して毎日夜中まで診療されていたというお話を聞き、小児の在宅診療がいかに必要とされていて、更なる発展が渇望される分野であるということがわかった。研修医のうちに小児の在宅医療に触れ、今後の自分がどのような医師人生を歩みたいか考えるきっかけにもなった。1ヶ月間同行させていただいた先生方、事務の方々、ドライバーの方々、本当にありがとうございました。今後は児童精神の分野に貢献できるような精神科医を目指して日々努力してまいります。